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5ー15
ー天界・第七天・アラボト・庭園
辺りに広がる花々の匂いが、鼻から抜けていく。
白いテーブルの上には、予定通りのティーセットが、用意されていた。
「グラーモティア・メッセ・ホリーント」
何時しか、出逢うであろう殿方の御子に。
「グリース・フィアス・セレモンテ」
少女は、何かを口ずさみながら、足をぶらぶらさせていた。
今日の紅茶は、正解ね。
口に広がるオレンジの香りが、堪らない。
「グリューテェス・アートゥ・ハリオス」
次々と、出てくる言葉に、庭園に居る精霊達は、驚いた。
彼女が…。
口ずさんでいるのは、古代冥界語だからだ。
今では、馴染みある者も、少なくなってきていると、精霊の王“オベロン”から、習った。何故、少女が、冥界の言葉を知っているのかは、不思議な点が沢山あった。
耳にしていた精霊達は、そっと、覗いてみる。
「とても、安らぐ感じが堪らないですわ。こうして、一人で、ティータイムとか、久しぶり」
嬉しそうに、呟きながら、ティーカップに、口を付けた。
太陽の光が照らす中、微風が、優しく、吹き付けていく。
それは、一枚の絵になるんじゃないかと思うくらいに、美しい光景であった。
こんな時間が、何時までも、続けば、良いのに。
そう、させてくれないのは…。
運命の悪戯か。
それとも、宿命なのか。
微かに、運び込まれてくる魔力に、レイナは、気付いた。
「…折角のティータイムを」
今回は、迷い子とはいかないだろう。
此処へ…。
足を、運び込む理由。
ー…私でしょうか。
やはり、頼りになるのは、専属が作ってくれた髪飾り。
それ以上の、距離には、近付けさせない。
「あまり、力を使うのは、好ましくないのですが…この場合は、仕方ないという事で。一度目なら、見逃していたのに。魔界帝国の王族方は、暇を持て余している様には、見えないのですが、彼だけですか?兄様」
怒りが籠った声音で、呟いた。
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