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5ー23
『聞こえるかい…』
そう、囁かれた時、暗闇の中で、彼が笑う。
『いいや。この時代に、飛ばされてきた理由を知りたかったんだが…。きっと、答えてはくれない』
少し、寂しそうな声音で、彼女は、呟いた。
『ー…掟が、存在する事を忘れないで。私は、聖霊界に、携さわれない身。それは、破滅の音が、鳴り響いてしまうから』
遠い記憶の中から…。
懐かしい声が、聞こえてきた。
魂を、最初から作り上げ、形にしていった肉親。
聖霊界とは、関わってはいけない理由を。
ー…私は、知っている。
焼け野原になっていく、惨劇を見る度に…。
破滅の象徴が誰なのかと、考えた。
考えたけど、答えは、謎の中。
『今、繋ぐべきではないのか…?』
『無理だ』
よく、彼女の性格を知っている。
こいゆう状況でも、静かに見守るタイプなのだろう。
何時しか、弾いてくれたショパンの『夜行曲(ノクターン)』が、今でも耳に残っている。
『あぁぁ、聞こえないんじゃ、意味無い…』
『ソナタにとっては、ラッキーだろう。私の●●は、冷めているからな』
『それが、問題だろう。何で、聖霊界を、放り投げてまで…魔界に拘る必要があるのかを、是非とも訪ねたい…』
『元から、聖霊界は、管轄じゃない。他に、理由があるとすれば、教えてくれている』
こんな姿を、見られたら…。
ー…時空の穴に、引っ張られるぞ。
一度、経験して…。
泣いた癖して、平然と、サボろうとしているのが見え見えだ。
だから、何時も、避けられているのだろう。
苛々しながら、女性は、男性を見た。
何故、この時代の狭間で、二人は、閉じ込められているのかが不明だった。
ただ、暗闇の中では、普通に息をして、生活が出来る。
それ以外の、情報と言えば…。
視えている世界の事だろうか。
随分と、懐かしい物が、映る。
嘗て、自分が、生まれ育った場所みたいだ。
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