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5ー24
ー天界・第七天・アラボト・庭
柔らかな風と共に運ばれてくる不穏な空気。
こいゆう時は、大抵、何かが回り始める合図だと、彼女は、知っていた。
天界に、魔族が居る事は、闘いを、意味する。
それは…。
彼も、知っている筈。
「天界第十章、神の力を使い、魔族を、拘束致します…」
こんな風に、使いたくはないのだけれど。
去らないのなら、去る方向性に、持っていくしかない。
そっと、レイナは、体勢を変えた。
「戦闘態勢を取らなくても」
「でしたら、直ちに、魔界へ、お帰り下さい…」
でなければ…。
ー…発動させてしまう。
華麗なるワルツの一貫を。
相手に、気付かれない様に、息を吸う。
左足を…。
ゆっくりと、動かし。
彼女は、距離を縮めていった。
鼻に付く、臭気が何とも言えない。
魔界が、どんな場所かは知っているが、此処まで漂う異臭の匂いは始めてだ。
何時も…。
父親や、兄の匂いに、慣れているせいかも知れない。
仄かに香るムスクの香りは、大人の男性の匂いがして、柔らかい印象を与える。
嗜み方を解っているからこそ、本来の匂いは、漂わせないのが、父親と兄だった。
「私は、話を」
「長話も、終わりにしませんか?」
「…っ」
「隠していても、匂うんですよ。不吉な香りが、其処から漂っている。貴方が、一歩でも、動けば、花々が、枯れる…」
見ていないとでも思ったのでしょうか。
足元にある花々が、一気に、枯れていく。
それは、彼が、魔族の中で…。
生を吸う者だからだろう。
その、証拠に、ルィーアイン・シュタインの顔が歪む。
「何故、父と…一緒に」
「それ以上の会話は、受け付けません…」
一歩でも動けば、此処が、全て、枯れてしまう。
レイナは、異なる瞳を細めて、小さな声音で『ごめんなさい。母様』と、呟いた。
もう…。
既に、遅い。
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