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5ー25
何処からともなく、鐘の音が、ゴーン、ゴーンと、鳴り響く。
素直に、立ち去ってくれさえすれば、力を使わずに、済むのに。そう、させてくれないのは、目の前に居る男性のせい。
目的が、どうであれ。
此処に…。
居る事が、何よりの証拠。
何故、本性を、剥き出しにしないのだろう。
「レイナ皇女、私と魔界に…」
「お断りします」
黒い靄を、漂わせながら、彼は吐いた。
魔界へ、行くとすれば、父親と兄に、逢いに行く時だけだ。その他は、互いの秩序を、守りながら生活をして、過ごしている。
況してや、父親の配下でもない男性と、一緒に、魔界へ、降りるなど有り得ない。
賢くって、知性がある魔族が誘惑するのは、お手のもの。
其処に『はい』と、言って、付いていく馬鹿はいない。
企みなら…。
匂いと、一緒に、運ばれてくるんですよ。
「大丈夫です。父には、私から話しますから…」
「貴方、一歩間違えば…犯罪者ですよ。幼女誘拐とか、どうかと思います」
「だから、承諾さえしてくれれば…」
誰が、承諾なんかしますか。
“マルマ”の嫁になるくらいなら、舌を噛んで、死んでやりますわ。
大体、目的が、可笑しいんですよ。
父親の為ってよりは、自分の為。
魔王に、媚を売ろうとしているのか。
爵位が物を言う世界。
強ち、間違ってはいないだろう。
地位欲しさに、媚を売るのは、どちらの國も同じかも知れない。
顔色を伺い。相手の懐に入る…。
それを、彼は、やって退けようと、言うのだろうか。
だとしたら、私は、少なからず、力を半減する訳にもいかない。
ー…一つ、ひとひらの蝶が舞い落ちる。
『二つ、蒼き炎が舞い踊る』
ー…三つ、軈て来る、夜の舞踏会に、貴方は、舞うでしょう。
微かな音に、反応する大地。
時間が止まったかの様に、二人を、緊迫な空気が包み込む。
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