124 / 129

12ー2

-異界 窓から、入ってくる風に、春の訪れを感じる。 透き通る様な水を思わせる長い髪が、靡く。 -…軈て、収穫祭。 彩る世界に、精霊達が、今年の豊穣を祝う。 下界では、イースターと、言うらしいが、此方は、果実をふんだんに使った物が出てくる。葡萄を樽の中に入れて、踏み潰す作業なんて、楽しそうな歌が聞こえてくるのだ。 「さて、赤ワインの時期が、やって来るのだけど…靉流は、飲めるかしら」 読んでいた本を、パタンと閉める。 「収穫祭は、聖霊界では、年に一度の楽しみ。歌い、踊り、酔っ払う」 それが、聖霊界の王を讃える祭り。 何と、誉れな事だろうか。 幾つもの収穫祭を見て来たが、聖霊界のは特別だ。 この時ばかりは、冬の訪れを教えるティターニャが顔を出すのを樹は、知っていた。 嫉妬深いオベロンも、この時ばかりは羽目を外させて良いと思っているのか、寛大だ。来る者をもてなすのが、聖霊界の掟。 如何に、楽しく過ごすかは、夜の精霊に掛かっているのは確かだが、其処をやって退けるのが彼。 「お茶目よね」 何度か、目にした事があるけど、彼女すら目を開くくらいだ。 おもてなしの心得を理解している。 周りを楽しませて、騒いで、ナンボと思っているのだろう。 彼なりの接待の仕方と言えば納得がいく。 盛大に広げられる収穫祭、見に行こうかと考えたけど。 「今は、駄目よね。靉琉が、戻って来るまでは。なので、アズイを弄ろうかと」 こいゆう機会しかないのよ。 彼を弄るのは。 「最高に美味しいオレンジティーを飲みながら」 出逢った事が、きっかけか。 元から、運命だったのかと問われれば、星が結び付けたと言うしかない。あの時、輝いた星は、アズイという冥界王族の皇子に、導いたのだ。 無論、逢った時、驚きを隠せなかった。

ともだちにシェアしよう!