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あの、忘れらし王族『グラーデン』の嫡子に目が止まるとは、思ってもみなかった。
聖霊界の断崖絶壁とも言える場所にいる女が、不思議で仕方なかったのだろう。
当時、彼女は、白き魂を、土に還そうと思っていた。昔ながらの土埋葬をしようと、思惟していた時に、出逢ってしまったのだから偶然が重なった結果だ。
魔界から、彼処まで飛んで来たら、瘴気の匂いもするでしょうに。
どんなに、隠そうにも、隠しきれない香りがある。
「当時は、流行っていたのよ。香水。主に…百合、鈴蘭とか。後は、匂い花種で言ったら、薔薇や椿も使われていたわね…」
凄く、甘い香りがした香水だった。
何時しか、歴史は変わり、香水はフランスを中心に流行り始める。
王族や貴族の者達は香りを楽しみ、お洒落の一つとして扱う様になった。
樹は、色んな時代を視て来たが、あの頃は楽しむ事があったのを思い出す。
人間の社交界や、オペラ、オーケストラを傍観するのが趣味になってしまった。
変化していく人間の生き方に、共感を持ち始めたのも、アズイと逢ってからじゃないだろうか。若干、昔過ぎて、忘れてしまう事もあるが間違ってなければそうだ。
「だからじゃないけど、靉流には、色んな物を見せたくなるわ。触れて欲しくなるなんて、幾年ぶりに感じたのかしら…」
女性は、一回転をした。
ふんわりと、ワンピースが舞う。
色んなダンスを見てきたが、やはり、殿方からお誘いがあった時は、女性(おんな)としては、嬉しいものだ。手を取って、踊りたくなる。
煌びやかな世界に、憧れるのも理解出来てしまうくらい、夢の一時を過ごす。
管楽器の音に合わせ、相手に、身を任せる。
-…広がる世界が、輝かしくって。
眩しい。
『今宵』だけは、主役なのだと、思わせる。
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