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第二話:厄年過ぎたのに、厄が来る

【克樹side】 しとしと降る雨の中、一人の男が地面に座り込んでいた。 普段の自分なら通り過ぎ、手を差し伸べたりはしない。しないのだが、何故かあの日は男に差し伸べていたんだ。 男は顔を上げ、怪訝そうな表情を浮かべた。 艶やかな黒髪に垂れ目がちな瞳。 顔は想像していた年齢より若く見えた。 『何時までも濡れていては、肺炎を起こしますよ…』 俺の口からは有り得ない科白が出たのも、その瞬間が初めて。 他人に極力関わらない様、過ごしてきた自分が他人に関わってしまうとは…。 彼の名は…。 確か。 『…俺の名は“深季”。龍華 深季って言う』 ーー…龍華 深李。 はっきりとした口調で名を語ってくれたっけ。 もう逢わないと思っている所なんか、可愛いよな。 可愛くって、つい押し倒しそうになった欲を抑えた自分を褒めてやりたい。 顔が思わずニヤケそうになったのを彼は知らない。 紳士的振る舞いが、自分に出来ようとは。 従姉の旦那様の習慣を観察していて世界だった。 これは、本人には内緒にしておこう…。 バレたら、仕事の量では済まされず、煽りプラスの貶しが備わる紳士的な男性だ。 俺は、従姉が結婚した時から学習している。 特に小説を執筆している時に限り、物腰柔らかい口調でチクリチクリと針を刺してくるのだ。

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