17 / 117
3-1
視線をずらし、横を見ると、爽やかな微笑みが似合う奴が立っていた。
俺は、金魚みたく口をパクパクさせ、瞬きを何回かしたが。
幻影ではなかったらしい…。
こんな所で。
しかも、家の近くのコンビニで出会すとは思ってもみなかった。
「はい、深李さん…」
忘れもしない。
この男を…。
俺が雨に打たれていた所を、たまたま、発見し。
自宅まで招いて、風呂を貸してくれた恩人と、本来は敬うべきなのだろう。
が、直感的な部分で、コイツの性質が彼方寄りではないだろうかなんて感じてしまい。
言えないでいる。
俺は、コイツの妙な優しさから逃げ出した。
後から気付いたが、確か、風呂上がった時に、名前を教えてしまったんだっけな。
今更、思い出しても、後の祭りだが…。
「深李さん?ビール、温くなりますよ?」
「え、あ、ヤバっ…」
突然、現実に戻された。
タイムスリップしていたのに。
少し残念な気持ちになったのは、言うまでもない。
名前を教えたのは良いが、コイツの名前を完全に聞くのを忘れていたのを思い出した。
せめて、お礼だけは言っておかないとと思ったけど、逃げている途中に引き返すのもアレだから止めた。
結局、コイツは、俺の名前を知っていて、俺はコイツの名前を知らないままって訳だ。
ともだちにシェアしよう!