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男性こと、鳴澤 克樹をそうさせているのは、言わずと知れず、五日前に再開した人物だ。 首にやや掛かるぐらいの黒い髪。 少し垂れ目がちの黒い瞳。 順番的には早すぎる気もするが、つい、啄んでしまった柔らかく、甘いスイーツの様な赤い唇。 どれも、彼を喜ばせるには、十分だった。 驚きながらも、吸い付くと…。 甘い吐息を漏らしてくれた。 思い描いた通りのシチュエーションで、正に、ドストライクだった。 もっと、乱してみたいという思いはあったが、敢えて、邪な想いは抑え、紳士的対応をしたつもりだ。 「奈篦から聞いていたが、ここまで気色悪いと、殴りたくなる」 「五日前から、これじゃ、ある意味、使えないわね。鳴澤の若君が、鼻の下を伸ばしている姿を、今だ嘗て、見た事あって…?」 「…ない」 眉間に皺を寄せた男の隣に並ぶ様に女性が呆れた表情で彼を見据える。 これを、どうしようかと考えていた矢先であった。彼女は、次第に苛々が募っていくのを抑えたのであった。 隣の男性が居なければ、確実に彼女は、彼を蹴り飛ばしている。 あの顔を。 それくらい奇怪過ぎる光景が、目の前に映っているのだから、罵倒するだけじゃ足りない。 ここは、仕事に集中してくれる様に…。 運んでいないと、駄目だ。

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