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「俺が、逢いたいと思ったから、逢っただけ」 龍華 深李と接触した事により、彼の気持ちは高揚していた。 その言葉を聞き、女性は『はっ』と、苛立ちを覚える。 何故なら、男性の発言が気に喰わなかったからだ。 「若君、一歩、前進したって事は、手を出したのか…?」 「…だとしたら、何か、問題ある?詠清さん」 「…」 多いに、問題有り過ぎだと言ってやりたい男性。 彼方の『姫』に、大きな口を叩いてきてしまった女性。 よく、考えれば…。 彼女は、余裕な表情をしていた。 “龍”を落とされたら、困る筈なのに、至って冷静な話し方だった。 それが、何を表すのかなんて。 一つしか思い当たらない女性は、愕然した。 『龍華家』は、昔から、分家の『倉科家』の者と、契りを交わしている。 かくいう、龍華家の『姫』も『倉科家』の者と、契りを交わし、龍華 深李を産んだと、聞かされていた。 『姫』の嫡男だけが“龍”として…。 特別な存在になる。 海王を祀る家系ならではの習慣であり、掟だ。 それを、彼は…。 悪びれもなく、吐くもんだから、男性の瞳が鋭くなった。 浮かれるのも良いが。 仕事しろ!と、含まれた瞳であるのを彼女は、知っていた。 これに耐えられる程、彼が忍耐力を持っていないのも承知済みだ。

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