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女性は、ふっと、思った。 穏やかな流れる時間が、そう、感じさせたのか。 はたまた、自身で、そう、思ったのか。 彼が聞いていたら…。 目が点になる会話だろう。 「ま、小説の前に、龍華家の方を調べるのが最優先だと思うけど」 「あんまり、苛めないであげて…?」 「苛めているつもりはないよ?」 男性は首を傾げ、にこやかに笑む。 「うふふふっ…」 釣られて、彼女も笑いを溢した。 『苛めているつもりはない』と、はっきり、断言した彼が可愛く思えたからだ。 「それで、彼方の姫は、何て言っていたんだい?」 聞かれると、覚悟はしていた。 龍華家に赴いた事には理由があると、確証しているからこそ、真摯な眼を向けて尋ねる。 「ふぅ-…。『古の“龍”を、落とせる程の実力があるのか、拝んでみたいわ…』と挑発されたわよ。志龍たら、楽しんでいるんだもん…」 思わず、溜め息が溢れる。 何だかんだで、試しているのは解った。 志龍の挑発に…。 乗ってしまったのよね。 克樹の本気が、何処までか、知りたかったし。 今更、無かった事にするのは、御法度。 あの日、あの瞬間に。 切って…。 落とされた。 龍華家の“龍”を、従弟が、どう、落とすか。 女性は、あれが合図だと確信していた。 優雅に立ち去る間際に、クスッと、微笑が溢れていたのを見逃さなかった。

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