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ーマンション・金字・二十六0号室 ドアを、静かに、開き、中へ、入って行く。 今の時間なら。 男性は、ベッド上で…。 熟睡中だろう。 決まって、同じ時間に現れる女性の影響で、体力を消耗する分。 眠気が急激に、襲ってくるのを、男は知っている。 スリッパを履き、スタスタと歩き、リビングに入る扉を開けた。 「センスだけは、良いんですよね…」 部屋を一瞥し、短い溜め息を吐く。 シンプルで、統一されているのは、部屋に住む住人の、趣味みたいなもの。ごちゃごちゃとした装飾品を嫌う傾向があり、必要な物しか、置かないのも特徴である。 「さてさて、寝室は…」 リビングを通り抜け、男性が寝ているであろう寝室を探す。 龍華家に居た頃と、然程、変わらない配置である事は解っている。 意外に、模様替えはシンプルオブベスト。 早々、新しいのを取り得たりしないのが、また、彼の特徴だ。 ま、さっき、ちらりと、拝見しましたが…。 何個かは、新しいのを新調した形跡がありました。 あれは、志龍様の小説を朗読する為に必要な物だと、判定しました。 でなければ、声に良い品物が、ずらりと、棚の上に並べられていない。 サボらず、声を育てているのだから…。 流石、志龍様が仕込んだだけある。 ほんの僅かな時間で、彼は男性の抜かりなさに、天晴れだと思った。

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