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どんな事があっても、上品さを忘れない女性。家の中だとはいえ、気を抜かない。 「何が、君を刺激したんだい…」 「っ、ふ…あの子よ、克樹よ。ふふふ」 「若君…?」 「そうそう」 男性の質問に若干、肩を震わせながら、夕方の事を思い出す。 龍華家の事を調べ尽くした人間が、何を不服に思ったのかと言えば、女性と彼の企みを気付いた事。 もう、それは、絵に描いたかの如く、苛々を全面に出していた。思うツボに動かされた事が気に喰わない従弟からしてみれば、彼女に対し、腹立たしさを覚えただろう。 そこに、女性はツボった。 面白い物が見れたと言えば…。 見れた。 腹を抱えたくなるぐらいの大笑いを飛ばし、周りを圧倒させた。十分に笑った筈なのに、従弟の顔を浮かべるだけで、溢れそうになる笑い。 克樹の顔たら。 面白い。 あの瞬間を、写メっておくんだった。 そしたら、詠清さんと笑い飛ばすのに…。 久しぶりに、感情を出す、克樹を見ていて忘れていたわ。 あれは、相当、悔しかったに違いない。 私達、夫婦にしてやられた事が。 屈辱的って顔をしていたもの。 女性は反芻しながら、考えていた。 従弟の顔は確かに、面白く、刺激があり、絵画コンクールがあったら賞を取れるんじゃないかと思った。

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