68 / 117
8-1
どんな事があっても、上品さを忘れない女性。家の中だとはいえ、気を抜かない。
「何が、君を刺激したんだい…」
「っ、ふ…あの子よ、克樹よ。ふふふ」
「若君…?」
「そうそう」
男性の質問に若干、肩を震わせながら、夕方の事を思い出す。
龍華家の事を調べ尽くした人間が、何を不服に思ったのかと言えば、女性と彼の企みを気付いた事。
もう、それは、絵に描いたかの如く、苛々を全面に出していた。思うツボに動かされた事が気に喰わない従弟からしてみれば、彼女に対し、腹立たしさを覚えただろう。
そこに、女性はツボった。
面白い物が見れたと言えば…。
見れた。
腹を抱えたくなるぐらいの大笑いを飛ばし、周りを圧倒させた。十分に笑った筈なのに、従弟の顔を浮かべるだけで、溢れそうになる笑い。
克樹の顔たら。
面白い。
あの瞬間を、写メっておくんだった。
そしたら、詠清さんと笑い飛ばすのに…。
久しぶりに、感情を出す、克樹を見ていて忘れていたわ。
あれは、相当、悔しかったに違いない。
私達、夫婦にしてやられた事が。
屈辱的って顔をしていたもの。
女性は反芻しながら、考えていた。
従弟の顔は確かに、面白く、刺激があり、絵画コンクールがあったら賞を取れるんじゃないかと思った。
ともだちにシェアしよう!