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17.きぬぎぬ

 うとうとし、ちょうど眠りに落ちようとしたところで、隆人の(おとな)いがあった。 遥は目をこすりベッドの上に身を起こした。  寝室に隆人が入ってきた。 「起きたのか?」 「うん」  薄い掛け布団を持ち上げ、隆人を誘う。  隆人が微笑いながら滑り込んできて、遥をシーツに押し倒した。 「眠いか? 眠いなら、このままでいいんだぞ」  遥は隆人の首に腕を回し、自らキスをねだる。  深く互いの舌を貪れば体は自然と目を覚まし、熱く火照ってきた。隆人が自分を求めるのを感じて、遥の中で期待のうずきが生じてくる。  互いのパジャマと下着を脱がせあい、直に触れあって相手を欲する形を確かめ合う。  隆人の欲望を深く浅く身内(みぬち)に受け入れ、遥は喘ぐ。 「感じるのか、遥」 「ああ……、たかひ……」 「もっと欲しいだろう?」 「……んっ、もっと、もと感じたっ…いはげしく」 「いいぞ、遥」  隆人が答えた。  他人が、異物が、体内をこすり上げ引き抜かれ出入りしている。電撃のような快楽も、無理に広げられる苦痛もごちゃごちゃにかき混ぜられて、たまらずに隆人の体にかじりつき、無意識に腰を振っている。振っていると気づいて恥ずかしくなってもやめられない。 「たかひ、と、たかひと……」  大海に放り出され、溺れかかっているかのように思えて隆人にすがるが、その隆人こそが遥に快楽の波を続けざまに浴びせかけているのだ。  遥の腹部に欲望の証がたかまっていく。 「もう、もう……」  最後のひとことが言えず、その代わりシーツに片手をついて背を浮かせ、噛みつくようにキスをした。 「わか、った」  隆人の方ももう限界が近かったのだろう。一度大きく腰を引かれた。 「あんっ」  不満げな声を上げてしまった直後に大きく突き上げられた。 「ああっ」  背が思わずのけぞる。  隆人は花火の時よりも荒っぽく遥を追い立ててきた。  遥は目を閉ざして隆人の首に腕を回し、すべてをゆだねた。  何度かの大きな波の後、ついに遥は波の頂上へ突き上げられ、欲望を吐き出し、隆人の欲望の証をも体内に感じた。  風呂を簡単に使い、下着だけを身につけ、二人抱き合って清潔なベッドで眠った。  疲れていたからだろうか。それとも満たされていたからだろうか。遥はぐっすりと眠った。  朝が来て、世話係が起こしに来た。  ガウンを着て、世話係の給仕で朝食をとる。昨日がずっと和食だったせいかスクランブルエッグにベーコン、サラダにスープ、パンといった洋風がありがたい。  その後、鳳方の世話係から隆人の衣類が届けられ、俊介が隆人の着替えを手伝っていた。仕事に行くのだろう。ネクタイこそしていないものの、ワイシャツにスーツだ。  遥は則之のサポートを受けて着替えた。帰るだけなので淡いミントグリーンのポロシャツに生成りの麻のパンツを選ばれた。 「遥」  隆人に呼ばれて前に行った。 「きぬぎぬ、という言葉を知っているか?」  首を横に振る。隆人が「そうか」と言った。 「昔は通い婚だった。女のもとを男が訪ね、朝帰った。きぬぎぬの語源ははっきりとしてはいないそうだが、布団がなかった時代に共寝するとき、互いの着物を重ねて掛けて布団のようにしていたらしい。その重なり合った衣と衣とが別々になる朝、ということできぬぎぬは、後の朝と書く」  隆人が遥の手を取り、手のひらに「後朝」と指で書いて見せた。 「今の俺とお前だ」

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