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3.目隠し
寝室に入った。
稲光とともに雷鳴が響いてくる。
成金だった祖父が建てた豪華な屋敷は戦争で焼けたと聞いた。同じ敷地の小屋敷が今の住まいだが、それでも一般の住宅よりはかなり広いようだ。
寝室内にお茶ができるテーブルセットまで、あと少し。
そこで引き留められた。
「ここに跪いて」
強い力で絨毯の上に膝をつかされた。そして、襟首を掴まれ、頭を押さえつけられた。
「さあ、最後のキスをしましょう、義兄さん」
唇に触れたのは冷たい物体だった。しかもやや硬い。
冷たい? 硬い?
「颯樹……」
引き起こされた僕は声の方を振り向いた。
「颯樹! この目隠しを取れ! これは義兄としての命令だ。わが家で何が起きたのか見せろ!」
颯樹は案に相違して、くすくす笑った。
「義兄さんは勇気があるというか、無謀だな」
口調が変わった。
「いいですよ。目隠しは取ります。何を見ても知りませんからね」
目から頭にかけての圧迫が弱まっていく。光が徐々に透けてくる。
雷光が室内を真っ白に照らし、バリバリと空気を劈 く音がした。
カーペットの上にあったのは、目を見開き口を歪め、喉をかきむしった痕のあるランジェリー姿の彩子と、全く見知らぬトランクス一枚の醜く顔を歪めた青年の死体だった。
僕は絶叫した。し続けた。
息が尽きて、声が出なくなった僕の耳に、颯樹が吹き込んだ。
「だから目隠しをしてあげたのに」
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