3 / 7

3.目隠し

 寝室に入った。  稲光とともに雷鳴が響いてくる。  成金だった祖父が建てた豪華な屋敷は戦争で焼けたと聞いた。同じ敷地の小屋敷が今の住まいだが、それでも一般の住宅よりはかなり広いようだ。  寝室内にお茶ができるテーブルセットまで、あと少し。  そこで引き留められた。 「ここに跪いて」  強い力で絨毯の上に膝をつかされた。そして、襟首を掴まれ、頭を押さえつけられた。 「さあ、最後のキスをしましょう、義兄さん」  唇に触れたのは冷たい物体だった。しかもやや硬い。  冷たい? 硬い? 「颯樹……」  引き起こされた僕は声の方を振り向いた。 「颯樹! この目隠しを取れ! これは義兄としての命令だ。わが家で何が起きたのか見せろ!」  颯樹は案に相違して、くすくす笑った。 「義兄さんは勇気があるというか、無謀だな」  口調が変わった。 「いいですよ。目隠しは取ります。何を見ても知りませんからね」  目から頭にかけての圧迫が弱まっていく。光が徐々に透けてくる。  雷光が室内を真っ白に照らし、バリバリと空気を(つんざ)く音がした。  カーペットの上にあったのは、目を見開き口を歪め、喉をかきむしった痕のあるランジェリー姿の彩子と、全く見知らぬトランクス一枚の醜く顔を歪めた青年の死体だった。  僕は絶叫した。し続けた。  息が尽きて、声が出なくなった僕の耳に、颯樹が吹き込んだ。 「だから目隠しをしてあげたのに」

ともだちにシェアしよう!