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4.指輪

 僕は息を吸っても吸っても苦しさが消えなくなっていた。 「過呼吸ですよ」  抱き上げられて、ベッドに運ばれた。今朝まで僕と彩子が寝起きを共にしたベッドに。 「安心してください。シーツは替えてあります。義兄さんを(けが)れた(しとね)に寝かす愚は犯しません」  僕はぶるぶる震えながら訊ねた。 「な、なにが、おきたんだ。あの男は、だ、誰だ。なぜ、ふたりとも、し、死んでる、んだ。そうだ、け、警察を……」  颯樹が添い寝をするように、ベッドに横になり、僕の背をさすった。 「あれは間男ですよ。加藤光太郎という姉の情夫です。義兄さんが居ない間に連れ込んではこのベッドでお楽しみだったというわけです」  僕は目を閉じた。涙で目が熱くなる。 「そんな……」  颯樹が優しい声で言った。 「本当に義兄さんはいい人ですね。馬鹿がつくくらい」  雷光を背景に起き上がった颯樹が笑った。 「だから、僕がふたりに罰を与えました。男はすぐに片付きましたが、姉はアーモンド臭に気がついて厄介でしたけど」  颯樹は、何を言っているんだ?  死体が、亡くなった方がいるのだから、警察を呼ばなくては。  彩子が亡くなったのだから、葬式を出さなくては。僕は夫なのだから。  彩子を僕は愛しているから。  あれ?  僕はなぜ、腕を縛られているんだ? 「失礼しますよ、義兄さん」  颯樹が僕の体をうつ伏せにした。手に触ってくる。  指輪を、結婚指輪を外そうとしている! 僕と彩子の大切な指輪!  外させまいと握りこんだ手も、颯樹の力には叶わなかった。力尽くで外される指輪は肉に食い込み、痛みだけを僕に残した。  颯樹が僕の視界に戻ってきた。 「これが今義兄さんから外した指輪。それから、ここに放置されているのが、姉の指輪です」  ナイトテーブルの上のランプの根元を颯樹が指で示した。それから小さな物を取り上げて、手のひらの上にのせ、僕に見せた。  小さなダイヤの入った、彩子の結婚指輪。  ふたつを並べてナイトテーブルに置いた。 「こんな忌々しい物、消してしまいましょう。二度と指にはめることなどできないように」  ナイトテーブルの引き出しを颯樹が開けた。そこには夜の生活のための道具が入っているはずなのに、なぜか金槌が出てきた。  そして、颯樹は指輪を立てて金槌でトントンと潰しだした。 「やめて、くれ……」  僕はまだあがいていた。まだ幸せな結婚をしたのだと信じていたかった。しかし、颯樹は容赦なくその象徴を叩きつぶした。  泣き出した僕に颯樹が触れた。 「泣かないで、(まこと)さん。これで不幸な結婚に終止符が打たれました。あなたは悪夢から自由になったんです」  仰向けにされた僕の上に颯樹がまたがる。 「これでお前は俺の物に戻った」  僕は全身がガタガタ震え出すのを止められなかった。颯樹の手が僕のワイシャツのボタンをはずしてゆく。 「昔も楽しんだよね、真」  ベルトがはずされ、下着ごとスラックスを一気に脱がされる。 「覚えてるだろう? 旧校舎の音楽室」  僕はひいっと息を詰めた。  音楽教師の名前で、放課後使われていない旧校舎の音楽室に呼び出された。中へ入ったら、今日のように目隠しをされ、腕をテープで止められて、そして――

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