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戯れの果てに

「うははっ、兼嗣、離せって!」 「ふは、ちょっと待ってッおぁあっぶな……っ!!?」  兼嗣に掴まれた足首を振り払うためバタつかせた拍子に、やつがぐらりとバランスを崩す。  ずるっと梯子から足を滑らせた──のを、胸ぐらと肩口あたりのTシャツを両手で握りこみ、渾身の力で自分のほうへ引っ張りあげた。 「──馬鹿ッ!!!」 「うわぁっ!」  ばふっと、ふたりして布団になだれ込む。  男ふたり分を支えたベッドはミシミシミシと壊れそうな悲鳴をあげ、大きく軋んだ。 「…………は、あ、焦ったー……」 「ごっ、ごめんみーちゃん、ありがと」 「いや……、俺こそ」  無我夢中で一気に引きあげたせいで、やつは俺の腹のあたりで茫然と突っ伏している。  俺は自分の勢いと兼嗣の重みの反動で背中を打ちつけたものの、枕とマットレスがしっかりと受けとめてくれたおかげで、どこも痛くはない。  ドクドクと、今になって心臓が速くなりだした。  正直ちょっと……いや、かなりヒヤッとした。  あいつが落ちて、後ろの本棚で頭を強打するところまで一瞬にして考えてしまった。 ……その最悪な事態に、ならなくてよかった。 「すげー音したな、このベッド」 「ふたり乗るようには出来てないんだよ、たぶん」 「床抜けるんじゃね。いや、天井か?」 「どっちだろ、それ。天板かな?」 「あぁー……」  どうでもいいようなことを話しながら、肺いっぱいにゆっくりと深く呼吸する。  ドッドッドッと痛いほど跳ね続ける鼓動が、少しずつ落ち着いてきた。  それはいいが、体温が急に上昇したせいで、暑い。  最近は天気が悪くて雨がよく降るけど、季節は夏だ。  エアコンはついているけど室内はいたって常温で、しかも今は腹の上に兼嗣がいるから。  じわじわ体温が移ってきて、くっついたところが汗ばむほど暑苦しい。 「そろそろ退けろ、あっつい」 「……うん、ごめん」  言うと、兼嗣は困ったようにへらりと笑って、俺から上体を起こした。  だけど何故か開いた脚の間でまだ居座るそいつへ『いや、だからここから出てけよ』という意味で、ぐいっと肩のあたりを足で押しやる。  今度はちゃんと力の加減はしてる。いつまでも足許にいるこいつが悪い。 「……? なに」  どこか笑っているような目をして無言で見つめてくる兼嗣に、何か文句あるのか、と不機嫌を隠さずに口先を尖らせる。 「……まだ、用は済んでないよ」  うっすら細められた目。と、弧をえがいた口角。  やつの胸板に置いた足首を、思ったより強い力でぎゅうう、と握りこまれる。 「……?」  感じた、違和感。  なんだ、何かがおかしい。

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