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違和感は痛感へ
離れてくれてホッとしたけど、脈はまだ速い。
いつまでも消えない、足首を掴まれたときの毒がまわったような感覚が、兼嗣の熱っぽい瞳が、身体にまだ残っている気がして、気持ち悪い。
「みーちゃん」
「うわっ、な、なに……」
話しかけられるとは思ってなくて、背筋がのびる。
ベッドの下にいる兼嗣がにっこりとこちらを見上げていた。
「俺、お風呂入ってくるね。あと、はいこれ、五巻。読んだらもとの場所にしまっといて」
「……あ、あぁ、わかった……」
梯子の下から手渡された、読みかけの漫画の続刊。
さっき言ったこと、覚えていたのか。
ベッドの柵から軽く身を乗り出して返事をすれば、やつは俺から奪った薄いエロ本を机の引き出しにしまい、棚の引き出しから衣類とタオルを手にして、部屋を出ていった。
自分しかいなくなった室内には沈黙が満ちる。
なんだこの感じ。モヤモヤする……。
兼嗣ごときに弄ばれたようで、なんか腹立つ。
……だって、あんな顔を見たのは、初めてだったから。
初めて、同じ空間にいるのが嫌だって、こわいって思ってしまった。
──……本当は、キスされるかと、思った。
今思うと恥ずかしいくらいに狼狽えてしまった。
どうしてそういう考えに思い至ったのか、自分で自分が理解できない。
あいつとはただの幼なじみだから、たとえあいつに変な性癖があろうと、今さらどうでもいい。
どうでもいいが、今になってあいつも男なんだと実感したというか……。
自分より明らかに重い体重や厚みのある身体、雄っぽい視線に、無言の圧力を感じた。
意識させられた気が、した。
俺には、それは無関係な話なのに。
あのエロ本を見たせいで感化されたのか。
いや……、それこそ関係ないし、な。
「あーもうっ、漫画どころじゃねー……!」
手足を投げ出して、大の字になって叫ぶ。
よし、もう自室に帰ってしまおう。
それで今日は寝て忘れよう。
明日になったらこの意味不明な感情もなくなっているはずだ。
そう思い、俺はベッドからおりて、漫画をきちんと本棚にしまう。と、不意に、いつも鍵をかけている机の引き出しが目に入った。
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