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僕の世界は君でできてる
鍵をかけ忘れた机の引き出しと、手に取りやすい一番上に置かれた日記。
みーちゃんに興味ないはずの彼が、気にかかるくらい青ざめた様子。
そのときのことを、俺は知らないはずなのに容易に想像できた。
些細だけど無視できない証拠が揃って、走らせていたボールペンがぴたりと止まり、椅子に背中をあずけて天を仰ぐ。
ぱさ、とタオルが頭から落ちた。
「……見ちゃったんだね……」
「……え、ごめん、なに? なんか言った?」
「ううん。ひとりごと」
観ていたバラエティー番組の笑い声が途絶えて、音のボリュームが大きくなる。CMに入ったらしい。
彼はきょとんとしつつも立ち上がると、何も言わずに自分の棚からタオルや下着を取り出して。
「……そ。じゃ、俺もちょっと風呂いってくるわ。時間やばいし。テレビ、つけとく?」
「うーん……。消して大丈夫だよ」
「あい、わかった」
言って、彼はテレビの電源をオフにしたあと、ついでに俺が落としたタオルを椅子の背もたれに掛けてくれた。
ひとりになった部屋で、吐いたため息が大きく聞こえる。
……ああ、そっか。
見ちゃったんだ、これ。
日記を手にし、パラパラとめくっていく。
普段の生活で、学校のことや、遊びに行った忘れたくない思い出も書き記しているけれど、そのほとんどはみーちゃんに関する内容ばかりの、それ。
どうしてもムラムラしちゃったときは、本当に気持ちをそのまま書いたりしてた。
みーちゃんのちっちゃなお尻を割りひらいて、ナカに舌を突っ込んでペロペロしたいとか、引き締まったしなやかな脚に噛みついて舐めたい……とか。
そうやって何とか欲望を吐き出して、リアルでは自分を抑え込んで。
ボロが出ないようにうまい距離感で、今までずっと。もう十年以上、耐えた。
改めて読み返すと、ちょっと自分でも引くな……。
こんなに下劣で性欲だだ漏れな羅列を、みーちゃんが読んだのかな。
次に会うとき、彼はどんな反応をするのだろう。
……なんというか、自分でも驚くほど落ち着いている。
みーちゃんのことだから、いつもどおりに接してきそうではあるけれど、さすがにこんな文章見ちゃったら、その対応は想像できない。
よそよそしくされたら、どうしよう……。
無視されるよりも、言葉で罵って、キモチワルイと軽蔑してくれたほうがまだマシだ。
でももう俺は、俺が何を思おうと、全ての判断をみーちゃんに委ねるしかない。
「……はあ……、寝よ……」
うなだれて、落ち込む。
まだ半乾きの湿った髪のまま、ベッドの梯子をのぼった。
みーちゃんはよく、イヤなことがあったら寝るしかない。夜は最悪なほうへ思考が働くから、起きてたって仕方ない。日が昇ってからまた悩めばいいって、そう言ってた。
やっぱみーちゃん天才。いいこと言う。
そしてその時の顔が勝ち気でイタズラな笑顔で、かわいかった。
照明の明かりはここまで直接当たらないけど、眩しくて寝返りをうつ。
壁を向いて目をつむると、すんっと鼻腔に甘い香りが届いた。
「……っ」
あ……これ、みーちゃんの香水だ……。
たぶん、お風呂まだだったから。
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