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訪問者は邪魔者か救世主か
「え、なに」
「美夜飛のとこにさあ、俺のノート挟まったりしてない? 探してもないから、紛れてないかなと思って」
「あー……、じゃあ鞄とか見てみるわ」
完全に寛ぎモードだったせいで重くなった腰をあげて、のろのろと立ち上がった。
室内には入って来ず、ドア付近で待っている廣瀬の元へ向かう。
「微妙に心当たりあるんだよな」
「なに、場所の?」
「今日部屋帰ったとき、適当にノート類お前の机に置いたかも」
「まじ? それなら一緒に机にしまったかもな」
「さすがに人の引き出し勝手に開けらんねーなあと思って」
「はは……、だよな」
少しギクリとした。
笑ったはずの口角がひきつる。
何も知らずに穏やかに言う、廣瀬の台詞に心臓が跳ねる。
……そうだよな。普通は他人のプライベートエリア勝手に漁らねえよな。
忘れかけていた──いや、できれば忘れたかった一ヶ月ほど前の記憶が想起される。
初めて日記を見たあの衝撃と絶望感は、なんとか時間が解決してくれた。
今のところ兼嗣から変な目で見られてるような気はしないし、妙な接触もない。
むしろ拍子抜けするくらいいつもどおりで、だからだんだん、あの時のことを思い出す頻度も少なくなっていた。
でも本当はタイミングを見て、いつかは日記を見てしまったことを白状して謝らないといけないとは、思っている。
しかしよくよく考えれば、兼嗣はそのことを知るよしもないのだ。
やっぱり自分のしたことは簡単に言うべきではないのかも、と一度は固めた決意が盛大に揺らぐ。
「悪いな」
「いいよ別に。兼嗣、俺ちょっと部屋見てくるわ」
「……あ、うん……」
ざわりと湧いた罪悪感で居心地が悪い。
足早に兼嗣の横を通りすぎたとき、やつが無言で俺の挙動を見つめていたのが視界に入る。
だけどそれより、とっととこの場から離れたかった俺は、どこか訴えるようなその視線に素知らぬふりをした。
兼嗣を部屋に残し、廣瀬と自室に戻る。
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