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さがしもの
早速自分の引き出しを探ると、目当てのノートは気が抜けるくらいあっさりと見つかり、投げるように持ち主に渡す。用事はすぐに済んだ。
そしてその頃には、兼嗣への気まずさも幾らか和らいでいた。
しかし決意の天秤はさっきの廣瀬の言葉のせいでもうほとんど『言わない』に傾いている。
世の中、知らなくていいこともあるだろう。
兼嗣は根に持つタイプだし、今のままの距離感が一番いい関係だと思う。
アレは俺の自業自得で、自分が知らないふりをしていれば、また時間が解決するんだ。余計な刺激はしたくない。
もっともらしい言い訳だけど、事実でもある。
「助かった。これ明日提出のやつでよ」
「うぃー」
「てか美夜飛さ、遠山と仲直りした?」
部屋に戻ったついでだ。
洗濯し終えたまま、無造作に机や椅子にかけてあった自分の服をかき集めていたら、後ろからかかった廣瀬の声にピタリと静止する。
「……仲直りって、別に喧嘩してたわけじゃねえよ」
「そうなのか? 裕太が遠山のこと気にかけてたっぽいから」
「へ、なんで? つか裕太って、花岡? 兼嗣と同室の?」
思いもしなかった人物の名前があがり、廣瀬のほうを振り向いた。
やつは普段と変わらず落ち着いた声で、いつもの少し微笑んだような、人に好かれる柔らかな表情で言う。
「そうそう。たしか先月、お前が元気なかったときあったろ? あれと同じ頃、遠山の意気消沈っぷりが見てられないくらいだったって。まあそれ聞いたのが結構あとだったから、言うの忘れてた」
「あー……」
そっか。兼嗣からしてみれば、なんの前触れもなく急に避けられたことになるんだもんな。
それはちょっと、やっぱり悪いことをした。
でもせっかく今までどおりの平和で平穏な日常でいるのに、その原因を今さら蒸し返すのもな……。
当の兼嗣は、何故かあの避けていた一週間のことを一度たりとも言及してこなかった。
だからそれはそれで、こちらとしても都合がいいと思っていたけれど。
「……俺さ、兼嗣とずっと一緒にいるだろ。いくら幼なじみでも、距離感おかしいかなって思って。ちょっと離れてみようとしただけ」
「はは、なにそれ。本人に言わなかったのか?」
「言えるか? 逆におかしいだろ、そんなん口に出すの」
「まあな。でも恋人でもないんだし、距離おくとか、そっちのが意味分かんねえ。相手が可哀想だろ」
「そう、それな。俺もそう思って、やめた。別にもういいや、って」
「お前、振り回してやるなよ……」
「うん、悪かったと思ってる。もうしない。なんかあったら真っ正面からぶつかる。今までみてえに」
服を適当に畳んで、白いプラスチック製の引き出しにしまう。
廣瀬が何か言いたげな顔で眉根を寄せて、覗きこんできた。
「……美夜飛?」
「ん?」
「いや……、なんでもない」
「……なんだそれ。ま、いいわ。俺あいつの部屋戻るな」
「ああ、わざわざどうも」
自分から言い出しておいてやめられると少し気になったが、俺に背を向けてひらひらと手を振った廣瀬に、続きを言うつもりはなさそうだった。
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