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つかの間の

 勝手知ったるなんとやら。  話の途中だったのも忘れ、ワイヤレスのイヤホンをして、そそくさと掛け布団まで身体に巻きつける。  兼嗣のベッドのマットレスは、学生にしては少々高価なもので『今のマットレスが薄くて腰が痛くなる』という兼嗣が、めちゃくちゃ悩みながら以前通販で買ったものだ。  分厚い低反発は身体が沈みこんで、すぐに体温が移ってぬくぬくと暖かくなった。  快適すぎて、いつまでも布団に籠っていたくなる。  壁側を向いてしばらく動画を観ていたら、ふいに身体が揺れるような感覚がした。  足許に首だけ擡げると、困ったように眉を下げた兼嗣が梯子をのぼってすぐのところにいた。  その口は何か言っているのか、大きく動いている。 「え、なに?」  イヤホンを外すと、焦りの混ざった呆れた声が聞こえた。 「だからっ、そこで寝ないでって!」 「はー? なんだよ急に。俺もう風呂入ってるし、汚れてねえけど」 「そういう意味じゃないから! みーちゃんそうやってよく寝ちゃうんだから、部屋に連れていく俺の身にもなってよ」 「あ、やっぱりお前だったのか。たまに寝落ちしたとき、部屋戻った覚えないのに変だなーと思ってたんだよな」 「そうだよ。みーちゃん起こさないように梯子おりるの、すごい大変なんだから」 「逆にどうやっておりてんの? すげーなお前。つか起こせばいいじゃん普通に」 「米俵みたいに担ぐの! みーちゃん、熟睡してて全然起きないときあるんだよ」 「米俵!」  ぶあっはは!と腹を抱える俺に、兼嗣は今にも頬を膨らまさんばかりに拗ねている。  だってその時のことを想像したらちょっと笑える。  米俵っていう、実際に見たことはないのに的を射た表現が出てくるのも可笑しかった。  たしかに俺はどちらかといえば小柄なほうで、逆に兼嗣は育ちすぎたプードルだ。  体格差は一目瞭然だが、こちとらもうすぐ成人男性。重くないわけがない。

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