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いっそ殺されたい

 兼嗣が前のめりになり、覆いかぶさる。  耳の横に手をつくと、ミシ、とベッドが軋む。  視界がボヤけるほどの至近距離に顔が来たところで、兼嗣は犬みたいに鼻先を擦り合わせ、優しく囁いた。  唇に吐息がかかって、動けなくなる。 「何か、言うことはある?」 「……お前、俺で勃つの?」 「ふは……、自分で確認しなよ」  一瞬、兼嗣が本当に笑った気配がして、気を取られた俺の防御力が下がった。  その隙を、あっという間もなく唇で塞がれる。 「っん、ぅ……っ!」 ……まじか。まじか、こいつ。  本気で俺にキスしやがった。  遊びとか悪ふざけとか、そんなんじゃない。  重なった唇からぬるりと入ってくる舌は、もはや兼嗣ではない別の生き物みたいだった。 「っ、んんぅ……!!」  悪寒がぞわぞわと背骨を駆け抜け、顔から胸までぶわりと毛穴が開く。  拒絶。驚愕。悲嘆。  色んな感情が体の中に流れこみ、押し寄せてきて、あまりにも激しい感情に、自分でも追いつけず身震いする。  兼嗣の腕を両手で掴み身体を捩るが、びくともしない。 「ッや、め……っ、ンむ……!」  腕を突っ張って思いっきり胸を押し返すけど、それでもやつは離れない。  いつの間に、こんな……。  こいつ、ここまで力、強かったっけ。  飼い犬に手を噛まれる──どころか、生きたまま食い殺される気分だった。

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