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そんな声、知らない

 突っ張ねたはずの腕は、押し負けて折り畳まれる。 「んんっ、んぁ……っ、」  今まで、こいつとの体格差なんて意識したことがなかった。  骨の太さも筋肉量も重量感も、自分と全然違う。ホールドされると見動きがとれない。  やつの身体にすっぽりと収まり、掌握されてしまいそうな気分が胸くそ悪くて、吐きそう。  ぎゅっと瞑った目尻に、生理的な涙が滲む。 「っあ゙、ぅあ……っん、ぐ……やめろぉ゙……!」  絞りだした声が潰れた。  喉奥が熱く、チリッと焼けつく。  首を振って何とか無理やり喋ったら、口を開いたのをむしろ好機とばかりに、親指を下の歯にひっかけ、無理やり口を開けられて。  口内を、歯列を、頬の内側を、追いかけてきた兼嗣の舌が探るように動きまわる。  くちゅっと聞こえた濡れた音に、おぞましくて泣きたくなった。 「やっ、ぁ……んむ゙っ、」  舌の裏の剥き出しの粘膜をちろちろと擽られて、嫌悪感に、じゅわりと甘い唾液が溢れる。  それを音を立てながら啜られ、柔らかな舌同士が擦れる。  兼嗣の舌は、薄いのに俺よりも大きくて、それが蝶の羽みたいに口の中でひらひらして、口内をいっぱいに満たす。 「んぅっ、あふ……ん」  上顎の奥の柔らかいところに触れたとき、鼻にかかった変な声が漏れて、かあぁっと恥ずかしくなった。 「ん……、は、」 「ふ……っ、ん、んぅ゙……っやぁ……ッ」  長い長い貪るようなキス。  兼嗣の、味がする。  飲み込めず顎に垂れた唾液を舐めあげ、また唇ごと食われる。  脳髄まで吸われたみたいな感覚に、耳の奥のほうがびりびり痺れた。  お前の舌が薄くて大きいなんて、そんな情報いらない。

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