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おかえり理性

「……っは、ぁ……」 「……っ、」  しっとりと汗ばんだ身体が、呼吸するたびに擦れ合う。  思った以上に密着していたらしい。  まだ微熱の残る身体を少し離すと、隙間にひんやりとした風が入る。  下腹部に、ぬちゃりと、ほとんど透明な、たまに白く濁った糸がいくつも引いては切れる。  精液と愛液が混ざった生ぬるく不快な感覚。  それはめくれあがったTシャツのすぐ下から陰毛、結合部や脚の付け根までぐっしょりだった。  深く呼吸するたびに、腹筋の凹凸を際立たせるようにてらてらと卑猥に光る。  その分泌量の多さに、自分にドン引きした。 「……ん……み、ちゃん……」  気だるく淫靡な空気に浸るように、兼嗣が俺に擦りよってくる。  指先で自分の腹に触れると、サラサラしたローションでも浴びたみたいにぬるついている。  潤滑剤だったら、まだよかったのに。  だけどこれは、紛れもなく俺自身が垂れ流したカウパーと精液で。  気持ちよくなって、感じて漏らした証拠だった。  自分の意思に反して、淫欲に溺れた身体を目の当たりにし、今になって羞恥心が総動員で襲ってくる。  何してんだ、俺は。  しがみついて、喘いで。あれだけ嫌だって、のたまったくせに、口ばっかりで。 「……っ、離れろ、はなせ……っ、触んな!」  頬に触れた兼嗣の手を弾く。 ……恥ずかしかった。自分が。  とてつもなく浅ましい生き物になったみたいで、そんな俺を、こんな熱のこもった視線で見つめてくるのも耐えられなかった。 「っも、いやだ……、後ろ、抜いて……っ、抜けよぉ……っ!」  張りついた喉は、悲痛に濁った音をだす。  こんな中途半端な気持ちのまま、無責任にこんなこと、したくなかった。  感じたくなんて、なかった。  兼嗣を、受け入れられてしまった。  壊れるのなんて簡単だった。  おれが、無力だったばっかりに。  たったひとりの幼なじみを、親友を失った。

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