61 / 123
一難去って、また
色んな感情がせめぎ合い、まだナカに入ったままのをはやく抜いてほしくて、腕で口許を覆ったまま顔を背ける。
卑猥に濡れそぼった、情事の痕跡丸出しの、真っ赤に汗ばんだ肉体を直視できない。
自分で引き抜くなんてことも、恐ろしくてできそうにない。
動いたらいくらでも熱くなる気がして、そんな自分が信じられなくて、怖かった。
「……みーちゃん、おれ……」
「──……っはあー、最悪っ! 充電器忘れるとかほんっとツイてないよなー!」
「!!!」
…………は?!
自分たちの声しかないはずの空間に、唐突に入り口のドアが開く振動と、聞き覚えのある声が盛大に響いた。
びくぅっ!とふたり同時に身体が張りつめる。
──声の主は、兼嗣と同室の、花岡だ。
心臓が飛び跳ねて、硬直する。
何もできないまま兼嗣を見上げると、やつも目を丸くしていて似たような顔だった。
「あれっ? なんでこんなとこに俺の枕落ちてんの? なんか服めっちゃ脱ぎ散らかしてるし」
やばい、やばいこれ。本当にやばい。
花岡のペタペタした足音と、枕を拾った気配が聞こえる。
心臓の位置がどこかはっきりと分かるほど、脈打ってドクドクしてる。
神経が研ぎ澄まされ、空気の流れさえ肌を撫でた。
「……」
寝転んでいる俺に花岡は見えないから、向こうからしても同じだろうが、すぐ近くに声がある。
いくらハイタイプのロフトベッドでも、兼嗣にいたっては起き上がっていて丸見えだ。
どうすることもできず、俺は息を潜めて両手で顔を覆った。
ドコドコ跳ねる鼓動が速すぎて、心臓が痛い。
恐ろしくて、何も視界に入れたくない。
「って、兼嗣いるじゃん。なに、寝相悪かったの……か……って、……ん?」
まずい、兼嗣の存在に気付いた。
ともだちにシェアしよう!