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一難去って、また

 色んな感情がせめぎ合い、まだナカに入ったままのをはやく抜いてほしくて、腕で口許を覆ったまま顔を背ける。  卑猥に濡れそぼった、情事の痕跡丸出しの、真っ赤に汗ばんだ肉体を直視できない。  自分で引き抜くなんてことも、恐ろしくてできそうにない。  動いたらいくらでも熱くなる気がして、そんな自分が信じられなくて、怖かった。 「……みーちゃん、おれ……」 「──……っはあー、最悪っ! 充電器忘れるとかほんっとツイてないよなー!」 「!!!」 …………は?!  自分たちの声しかないはずの空間に、唐突に入り口のドアが開く振動と、聞き覚えのある声が盛大に響いた。  びくぅっ!とふたり同時に身体が張りつめる。 ──声の主は、兼嗣と同室の、花岡だ。  心臓が飛び跳ねて、硬直する。  何もできないまま兼嗣を見上げると、やつも目を丸くしていて似たような顔だった。 「あれっ? なんでこんなとこに俺の枕落ちてんの? なんか服めっちゃ脱ぎ散らかしてるし」   やばい、やばいこれ。本当にやばい。  花岡のペタペタした足音と、枕を拾った気配が聞こえる。  心臓の位置がどこかはっきりと分かるほど、脈打ってドクドクしてる。  神経が研ぎ澄まされ、空気の流れさえ肌を撫でた。 「……」  寝転んでいる俺に花岡は見えないから、向こうからしても同じだろうが、すぐ近くに声がある。  いくらハイタイプのロフトベッドでも、兼嗣にいたっては起き上がっていて丸見えだ。  どうすることもできず、俺は息を潜めて両手で顔を覆った。  ドコドコ跳ねる鼓動が速すぎて、心臓が痛い。  恐ろしくて、何も視界に入れたくない。 「って、兼嗣いるじゃん。なに、寝相悪かったの……か……って、……ん?」   まずい、兼嗣の存在に気付いた。

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