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バレたく、ない
「……なんでも」
ふと唇に突っ張ったような違和感がして、手の甲でゴシゴシと擦る。
1.5倍くらいには腫れてそうな、辛いものを多量に食べたときみたいな、熱を持っている感じがする。
……何度も唇を、吸われた……から?
そのときの情景や感触を思い出して、追いやるように脳内で首を振った。
そういう、見た目では分からないのに内部が傷ついていそうなヒリヒリした箇所が、身体のいたる所にあった。
今はなんか優しめの飲み物が、飲みたい。
「……なんか歩き方、変じゃね? しんどいのか?」
「……そうか? 普通だろ」
絶対、何がなんでも廣瀬には知られたくない。
寝起きなのもあって素っ気なく返す。
背後からの視線が痛いが、まあいつもどおりにしていれば大丈夫だろう、とひょこひょこと頼りなく歩いた先の冷蔵庫から、片手サイズの小ぶりな牛乳パックを取り出した。
付属のストローをぶっ刺して、銜える。冷たい感触が食道を通る。
胃にじんわりと染みるのが心地よいと感じた瞬間、唐突に、液体を拒否するように喉奥がぽっかり開いて。
それは前触れもなく、勢いよく逆流した。
「ッゴホ!! ゲホゴホッ、おぇ……っ」
蛇口をひねったようにダバダバ落ちる。思いっきり戻してしまった。
……最低、もう泣いていい?
フローリングの床には真っ白な水溜り。
それは高範囲に飛び散って、床も、着ていた黒い服までやっちまった。牛乳くさい。もったいない……。
「おいおい、大丈夫かよ」
ティッシュを箱ごと手にとって廣瀬が心配そうに様子を見にくる。
面倒見がいい……。優しい。ほんとに兄ちゃんっぽい。
「兄貴……」
「お前みてーな弟いらね。はやく服脱いで着替えれば? これ片しとくから」
「……うん」
床を拭くためにしゃがむのが無理そうだったから、今はその優しさに甘えることにした。
廣瀬は俺から牛乳パックを取り上げてシンクに避難させると、箱ティッシュとウェットのやつでそれはもう手際よく片付け、テキパキと空のコンビニ袋に突っ込んでいく。
Tシャツを脱ぐと、肌寒くてぶるりと鳥肌が立った。
「……はっ?」
「……あ?」
廣瀬の姿をぼうっと眺めていたら、袋の口を縛っていたやつが目を丸くしてこちらを凝視する。
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