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キスマーク
なんの心当たりもなく、まだ半裸の俺は頭にハテナを浮かべた。
「え……、それ、お前気づいてないの?」
「ん? なに、が……」
くい、と顎で指され、ふと自分の身体を見下ろして、俺はそこで初めて気づいた。
上半身裸の、見える範囲全てに点々と散る、それ。
下腹部や胸など場所によっては毒々しい痣のような、赤紫色に鬱血した痕跡。
範囲が広すぎて不気味ささえ感じる量の、禍々しいキスマーク。
「っ……はあ!?」
ぶわっと顔が熱くなった。
耳まで火照って、思わず身体を隠すように屈むと腰の芯にズキッと激痛が走り、膝からくずおれる。
肩には、くっきりと歯型が見えた。
自分で見えてる範囲でこれって、首とか背中とか、どうなってるんだ……。
「おいっ、美夜飛……っ!」
見られたのがショックでどうしていいか分からない俺に、廣瀬が近づいてくる。
いやだ、来ないでほしい。頭がぐるぐるする。顔が焼ける。
兼嗣の、妄執的な劣情を身体に刻まれた。
昨夜の行為の事実を裏付ける、証みたいな。
まだ熱を持ったまま締まらない後孔がひくついて、兼嗣のが体内を出入りした生々しい感触を思い出して、胃がキリキリと痛む。
そこから喉の奥へと熱い鉛のようなものがこみ上げて、激しい胸やけのような気持ち悪さに、俺はその場で盛大に嘔吐した。
「っおぉぇ゙っ、ぐ、ぅ……ッは、はあっ」
昨晩から何も食べていないせいか、さっきの牛乳が多少混ざったような多量の唾液だけが床を汚す。
唇から糸を引かせたまま嗚咽の止まらない俺に、廣瀬は狼狽しつつも背中をさすってくれる。
相手は無害だと分かっているのに、ぞわぞわと悪寒がする。
喉が焼けるようにチリチリして、生理的な涙が目尻に滲む。
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