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どうか笑って聞いてくれ
内心を人前で吐露したことに気恥ずかしくなり、寝返りをうって花岡に背を向ける。
少し間をあけてから、言葉を選ぶような温厚で優しい声が聞こえた。
「……朝日が、兼嗣に歩み寄るつもりなら、ソレは慣れだと思うよ」
「な、慣れるくらいすんのか……。あれを……」
「え、もしかして生々しい話する?」
「しねーよ。あと乱暴にもされてない」
縛られてたわけでもないし。
ケツは痛ぇけど、あんな腕みたいなモノを挿れたわりには、切れてるわけでもなさそうだし。
粘膜が摩擦のせいでまだ違和感があるのと、括約筋が腫れて緩んだような変な感じはするけど、その程度だから。
事後処理はちゃんとしたようで、身体のベタつきもないし、腹も下してない。
筋肉痛と、体内の炎症からの高熱や頭痛さえなくなれば、すぐ治ると思う。
「生々しい話じゃん……」
「……まじ? もう喋るのやめとこ」
「……いや、まあ、聞きたくないってわけじゃないんだよ。でもちょっと想像しそうになるっつーか……。ここ男子寮だからそういう話もたまに聞くけど、基本的に免疫ないし」
「……もしかしてお前、童貞?」
「……え、なに。童貞だけど童貞めっちゃ多いんだぞ。男子校上がりの寮生ばっかだし。えっ、待って。俺には荷が重い話する気?」
「はは、どうだろ。気楽に聞いとけばいいんじゃね」
別に詳しくは言ってないんだけど、こういう話はどうしてもそうなるよな。
でも花岡から嫌悪や軽蔑の空気は感じられず、ただ思ったままを素直に口にしているだけなのが分かって、裏表のなさそうな態度がむしろ有り難かった。
背中を向けているから尚さら、話しやすくて口が滑ってしまうのかもしれない。
「色々悪かったな、今日、巻き込んで」
「そんな、気にしないで」
「あのさ、俺……」
「うん……?」
……本当は誰かに、聞いてほしかった。
ひとりで考えるには埒があかない迷いと選択を、相談したかった。
でも確かに、こいつにとっては重荷かもな……。
楽しい話でも、有益な話でもないし。
「……いや、やっぱいいわ」
「ふは、途中でやめられると気になるよ」
花岡が笑う。柔和な声が、見なくても分かる穏和な空気が、口ごもる俺の背中を押す。
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