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正鵠を射る

 だってこんな話、廣瀬には言えない。  あいつは俺の味方だから、俺が間違った選択肢も視野に入れていることなんて知れたら、嫌われて失望されるかもしれない。  それが俺だけならいいが、自分のことみたいに怒ってくれたあいつに、これ以上、不快な思いをさせたくなかった。  あまりよく知らない花岡のほうが、客観的で俯瞰した意見が聞けると思い、恐るおそる、訥々と話す。 「……ほんとは、あれって、もしかしたら、無理やりじゃなかったのかも……って、思って」 「……意外。どうしてそう思うの?」 「抵抗、できたから……。実際何度も殴ったし、蹴ったし。腕力は敵わなかったけど」 「拒まなかったってこと……? でも朝日は殴ったんでしょ。ふつーはそこでやめるよ、友達なら。それを押しきったんでしょ、兼嗣は」 「……ごめん、すげえ生々しい話だな、これ」 「いいよ、話して」 「……だからって、何が正解だったのか、今でも分かんねえんだ」  そして、しばしの間。  花岡は身体の前で腕を組んで悩むように首をひねる。 「うーん、そうだなあ……。断れば良かったんじゃない? ガチめに。奇声発したり、相手がドン引きするくらい暴れたり……?」 「はあ……、そっか。そりゃそうだよな」 「でも、何が正しいかなんて、そんなこと本当に起こってみないと分かんないよね。テンパるだろうし。もしその対応を誤ってさ、大事な友達失うかもって考えちゃったら、そっちのがキツいかもね。だって唯一無二じゃん、幼なじみって」 「……っ、」  思いもしない台詞に、言葉に詰まった。  そうだ、そうなんだよ。  唯一無二だと、思った。だから。  拒めなかった、心底。  だって別に、あいつに触れられるのは、求められること自体は、いやではなかった。知らない他人じゃないから。 ……でも、身体に馴染む、拒む要素がないあいつだからこそ。  心底、いやだったんだ。 「だっ、黙るなよ……。気に障ったなら、」 「……違う。ちょっと涙腺にきただけ」 「えっ、ごめん」 「ううん……。花岡っていいやつだな」 「へっ? そ、そうかな……」  えへへ、と花岡は何故か嬉しそうにヘラヘラしている。  ちょっと薄気味悪いけど、でも本当に悪いやつではないことだけは伝わって、拒絶されなかったことが嬉しくて。  俺もつられて少し笑った。

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