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機転

 もしここでバレて、広まって寮長の耳にでも入ったら。  退学にはならなくても、女子を連れ込んだ罰で停学──もしくは最低でもペナルティの丸坊主は避けられないだろう。  兼嗣とは根本的な性格の傾向が似ているのか、馬が合って気楽だし、あいつの趣味に口出しさえしなければ、いつも優しくて、にこにこしてて柔和なイメージしかない。  せっかく何かの縁で同室になったんだ。  友人の恋路は、影ながら応援してやりたい。 「……俺、昨日消灯後に充電器取りに戻ったとき、あいつイヤホン外れてて大音量でAV流してたんだけど、もしかしてその話?」 「はあっ? なんだよそれー! まじかよっ、俺めっちゃドキドキしたのに!」 「知らんがな」 「ちぇっ、つまんねー! 結局あいつも俺らと同類か……。まあそれはちょっと安心したけど……」 「ぶっは、良かったな。チェリー同士、仲良くしようじゃないか。抜けがけは許さんぞ」 「あははっ、お前もな!」  じゃあな、とやつは俺の肩を軽く叩いて、まだ朝だというのに爽やかな笑顔でハツラツと去っていった。 ……あっっぶな。もしあの調子で他にも言いふらされたりしたら。  ただでさえ男ばかりで色っぽい話に飢えているんだ。揶揄われて格好の餌食になるぞ、あいつ。  そう思い、お節介ながら兼嗣に忠告はしておこうと思った。 「──……え?」 「だから、昨日、隣にまで声聞こえてたらしいから……、これからは気をつけろよ、って話」  時間は夕方だが、まだ空は太陽が出ていて充分に明るく、今日はずっと晴れていた。  いつも使っているヘアワックスが切れていたから近所の薬局にでも行こうとしたとき、翔に同室の男が熱を出して倒れたからと買い物を頼まれた。  ついでだからと快諾して、購入してきた薬や飲み物や冷却材やらが入ったレジ袋と同じく、ポケットから財布や携帯を取り出して机に置く。 「……あぁ、うん……。ごめんね。誤魔化してくれてありがとう」 「あの言い訳がすぐ出てきた俺、天才かと思ったわ。まあできれば部屋はやめてほしいけど、確かに場所ねえもんな、寮だとさあ」 「もうないと思うから、大丈夫だよ」 「へ……?」 「……」  この部屋をホテル代わりにされるのは複雑ではあった。だが、色気づいた話に正直自分のことのように浮かれていた俺は、そこでやっと、兼嗣の声に覇気がないことに気づく。

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