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勘違い
座椅子に座ったやつは、昨日めくるめく甘い一夜を意中の女子と過ごしたとは思えないほど、どんよりとした暗い雰囲気を醸しだしている。
その不穏な空気に疑問をいだいた。
「も、もしかして……振られた、とか?」
「……そういうのじゃないよ。完全に俺が悪いの。最低なことした……自己嫌悪で、もう……、ほんとなんで、おれ……、本当に馬鹿だ……っ」
両手で頭を抱えて背中を丸める姿と、自分を責める口振りに、何事かと逡巡する。
そして、最悪の事態が思い浮かんだ。
だけどその考えを否定してほしくて、確かめたくて。恐るおそる問いかける。
「えっ、何……、まさか、む、無理やり、えっちしちゃったの?」
──こくん、と力なく頷く。
兼嗣はしょんぼりと頭をたらし、見るからに意気消沈していて、さあっと頭が冷える。
そして次の瞬間には、爆発したように怒号が飛んだ。
「ほんとに馬鹿じゃん!! そんなっ、力でねじ伏せるなんて、一番やっちゃだめなことなんだよ!?」
「……っ」
「俺……っ、おれ、勝手にお前のこと、優しくていいやつだと思ってた。見損なった! まじでガッカリした! 女の子によくそんなことできるな!!!」
頭に血がのぼって、一気にまくし立てる。
訴えられても知らねえかんな!
……くそ、あの時、俺はあの場所にいたのに。
もしかしたら止められたかもしれないのに。
邪魔しちゃいけないと思った。でも実際は、邪魔をしなくちゃ、いけなかったんだ。
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