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女の子じゃない
俺だって馬鹿じゃねえか、と能天気だった自分にも苛立ち、前髪をぐしゃりと乱して頭を掻く。
薬局の袋を引ったくり、ドタドタと怒りに任せて部屋から出て行こうとすると、兼嗣が後ろから手首を掴んできて、足が止まる。
「……女の子じゃない」
「……は?」
「女の子じゃないんだよ、相手」
「はあ?! どっちにしろ同じことだろっ! 離せっ、今はお前の顔見たくねえ! 朝日に用あるんだよ、俺は!」
そのままの勢いで腕を振り払うと、兼嗣は冷や水でも浴びたように目を丸くしていて。
「……え、なんで?」
「だからっ、朝日が倒れたから、これ持って行くんだろっ、うぉおっ?!」
「どういうこと……っ?!」
突然ガシッと両肩を掴まれ、その鬼気迫る様子と、身体ごと持っていかれそうな握力の強さに驚いた。
肩に指が食い込み、俺が顔を歪めて痛そうな素振りを見せると、兼嗣はごめんと謝ってすぐに手を離す。
前々からデカい犬っぽいとは思ってたけど、そんな可愛いものじゃない、かも。
同じ男なのに力の差が歴然すぎて、恐怖を覚える。プレスされるかと思った……。
やたらと朝日の容態を気にかけて、必死の形相で取り乱す兼嗣に根負けして、かいつまんでわけを話す。
するとみるみるうちに顔面蒼白になり、足早に部屋を出て行くやつに妙な違和感を覚え、眉をひそめる。
これは逆に止めたほうがいいのでは。俺は何かを忘れてるんじゃないか、って。
そうして、ふと思い至った。
兼嗣の相手は女じゃない。じゃあ無理やり奪った男って、まさか……。
そのことに気づき、急いで背中を追いかけたころには、もう手遅れだった。
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