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犬も食わない

────…………  あれから一週間は経った。  朝日──いや、美夜飛の高熱は翌日には微熱まで下がり、さらにもう一日経ったころには何事もなく登校して、いつもどおり授業も受けていたらしい。  ヤンキーの回復力、恐るべし。  あの時はまるで凶悪な虎が非力な子猫になったように弱っていて、驚いたし心配になったが、杞憂だったようだ。  いつもなら鋭い大きな三白眼はずっと潤んでいたし、ギラついた激しい金髪はセットしてなくてサラサラで、その無防備さが儚く見えた。  元々色白なほうだから、高熱で目許や頬、首がほんのり赤かったのも脆弱さを助長していたと思う。  今思えばカボチャの馬車的な魔法にでもかかったような豹変ぶりだったが、まさしくただの幻想だった。  それより今、心配なのは兼嗣のほうだ。  俺とは同室で顔を合わせる機会も多いから、もう以前と変わらず接している。  だが、この一週間。  今度は兼嗣が美夜飛を避けているらしく、どうしても会って話をしたい美夜飛がよく部屋に来るせいで、あいつは自室にいることが少なくなった。 「──また、いねえの……」 「今はいないけど、いつも消灯時間の前後には帰ってくるよ」 「あいつ友達いたんか」 「友達ってかオタク仲間? 俺もあんま知らないけど、趣味が同じだから気が合うみたい」 「……あっそ」 「もう晩ごはん食ったよな? 兼嗣帰ってくるまでいる?」 「……いる」  些か失礼なことを言う美夜飛だが、その顔はどこか置いていかれた家猫みたいで、健気だなあと茶化すのはやめておいた。 「──消灯、過ぎた」  とくに会話をするわけでもなく、俺は自分の座椅子、美夜飛は兼嗣の座椅子でそれぞれ時間を潰していたら、美夜飛が携帯を見ながらポツリと呟いた。 「えっ、まじ? 帰ってこないな、兼嗣」 「はあ……、俺も戻るわ」 「兼嗣、電話しても出ねえの?」 「電話とかしねえもん、あいつと」 「まあ近くにいる分、機会はないよな……。でもこういうときのためのスマホじゃね?」 「……いい。出なかったら心底ムカつくから、したくない」 ……ああ、こいつは、兼嗣を受け入れるつもりなのかなと、このとき俺は察してしまった。  だって俺が美夜飛の立場なら、絶対こんなことできない。

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