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誤解です!

 座椅子だったこいつは前からの勢いに負けて、そのまま俺と椅子ごと後ろに倒れる。 「──いっ、てぇ……。お前……、顔の上に落ちるか普通……。ちょっとくらい受け身とれや」 「ごごごめん……っ、ほんとごめん。うわ、まじで鼻赤くなってる……」 「お前の腹に顔めり込んだからな……」 「まじごめん、顔蹴っちゃいそうになって、それを避けたら、どうしてもこうなった……」  手のひらで自分の顔を触って出血がないか確認する美夜飛に平謝りする。  鼻も赤いし、涙目になってる。  俺もみぞおち付近に美夜飛の頭部が当たってグエッてなったもん。あれを顔で受けたのか。 「お前の腹、ふわふわだったから大丈夫。顔面に膝蹴りされなくてよかったわ」 「え……俺、おなか、ふわふわなの?」 「……ふっ、ははっ、やめろって、笑かすな」 「いや別に笑かすつもりないんだけど……?」 「あははっ、まじでやめろ、ばか。はよ退け」  もうすぐ成人のピチピチの青年のお腹が、ふわふわだと……?  軽くショックを受けて、真顔で自分の腹をさする俺の下で、美夜飛はひっくり返ったせいで額を全開にしながら、呑気にケラケラ笑っている。  ツボに入ったのか、今度は違う意味で目に涙さえ浮かべていた。  いや……、あの、俺、お腹ふわふわって……。  確かに食べると真っ先に下っ腹が出るタイプだけどさあ。筋肉がないのかな。  えっほんとにふわふわ?筋トレしたほうがいい?筋肉は裏切らないっていうしな……。 ──なんて、美夜飛は肩をプルプルと震わせて笑いながら、俺は自分のふわふわな肉体に愕然としていたら、 「──……なに、してんの?」  自分たちではない声に、ギクリと肩が跳ねた。  部屋のドアの前で立ちすくむ兼嗣に、目を見開く。

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