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いらいら

……うそ、なんというタイミング。  ギギギ、と油の切れたロボットみたいな動きで美夜飛を見ると、俺はこいつの身体を跨いで覆いかぶさっていて、さらに美夜飛は座椅子に阻まれて身動きできない状態だったことに気づき、慌てて上から退いた。 「ちが、兼嗣、これまじで違う……!」  なんで本当のことなのに、言えば言うほど、言い訳じみたニュアンスになるのだろう。  怒ってるというよりは意味が分からなくて困惑しているといった様子だが、俺を見る兼嗣の視線が本当に痛い。  助けを求めるつもりで美夜飛に目を配らせると、代わりにだるそうにやつが言った。 「俺を巻き込んで転けただけだ」  美夜飛は座椅子から起き上がり、俺を背にして兼嗣と対峙する。 「じゃあなんで君は涙目なの?!」 「だぁからっ、顔面ぶつかったからっつってんだろ。どうでもいいことでいちいち喚くな、うぜえ」  美夜飛がイライラと金色の頭を掻く。  青筋を立たせ、ぎろりと睨みつける様子なんて完全にチンピラ丸出し。  あれに興奮して組み敷いた兼嗣もすごいけど、美夜飛の凄みがホンモノって感じで、身長差を感じさせないくらいの迫力も肝が冷える。 「どうでもよくないだろっ? みーちゃんがそうやっていつも無防備だからっ、俺はいつも……っ」 「は? お前また気持ち悪いこと抜かすつもりか。まじでやめろ、無防備ってなんだ。お前より危険なもんここにいねぇわボケ!」 「……口悪いよ、みーちゃん……」  ほんと、口悪い……。  知ってたけどね……そういうところが苦手だったんだし。  でも今はだんだん美夜飛の沸点が分かってきたから、怒っている理由も理解できる。

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