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かわいいって言うな
迷い戸惑う俺よりも、兼嗣の気持ちのほうが大きくて強かった。
暗い真夜中の激しい嵐みたいだった。
だから何も見えなくなって、飲み込まれた。
廣瀬の言動は、そういうのとは無縁だった。
「……ごめん。嫌なこと思い出させた」
「そう思うなら、さっさと退いてくんね?」
「……退いたら、行くんだろ」
「まあ……文句言いに、だけどな」
ちゃんとした合意の上で、お互いに求め合う。
お前みたいなやつと付き合う相手は、きっと幸せなんだろうな。
大事に大事に愛されて、安心感があってさ。
それがたとえ男同士であっても、明るい未来しか見えないって感じがする。
兼嗣にも、もう少しそういうところがあればいいのに。
そしたら俺は体調を崩さなかっただろうし、こんなにも悩んで苦しむこともなかっただろうし、ごちゃごちゃ女々しい感情になることもなかった。
そう思う反面、そんな完璧なあいつなんて、最早あいつではないな、とも感じる。
「……文句?」
「ああ、俺、まじで結構イラついてんの、あいつの今の態度に。だから全部、ぶちまけに行ってくるだけ」
「……」
無言で、何か言いたげな微妙な表情をされる。
心配だ、って顔に書いてある。
「なあ……俺、お前にそんなこと言わせるくらい、頼りねえか……?」
「……そういうわけじゃないよ。むしろ身持ちが固すぎてちょっと驚くレベル」
「身持ちって言うな。つかそっちだって同情で男抱こうとか、正気の沙汰じゃねえぞ、ほんとに」
「……同情かなあ。付き合ったら好きになるかもよ。もしそうならなくても、虫よけ程度にはなるだろうし」
「それを同情って言うんだよ。もっと自分を大事にしてくれ」
「はは、美夜飛だったら大丈夫だと思ったんだけどな。可愛いし」
「はあ? きっしょいわ」
……うわ、それ、昔からごく稀に、兼嗣には言われたことあるわ。
まああれは恋愛感情がすでにあったってことだろうから、まだ理解はできる。
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