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うれしくないから
あとは遠い親戚のジジババか、何年か付き合いのある限られた友人だけ。
やっぱり身長か……。身長なのか。
子猫に言うみたいでナメられてる気がして、俺は全く嬉しくない。
ていうか男で可愛いなんて言われて嬉しいやつなんて、存在するのか。
「いや、お前結構可愛いよ、まじで。全然懐かない野生動物みたいな感じ」
「……全然懐かない野生動物は、絶対可愛くないだろ……」
こいつ、目ぇ腐ってんじゃね。
いや、それより可愛さの基準が全然わからん。
意外とゲテモノとか好きなんかな。
「なのに可愛いから不安なんだって。きっとさあ、嫁ぐ娘を見送る父親の気持ちって、こんな感じなんだろうな……」
「ばっか、お前、意味不明すぎるわ……っ、やめろ、触んなっ、」
「可愛くないところが可愛いよ、俺のみーくんが……」
両手で顔を挟まれて、髪をわしゃわしゃ乱される。実家の犬か、俺は。
左右の親指が頬肉をもみくちゃにして、手のひらは耳を塞ぐ。
ゴソゴソと籠もった音が頭のなかで反響した。
『かわいい。俺の、みーちゃん……』
唐突に、あのときの兼嗣の声と重なる。
空気が密閉された鼓膜の閉塞感や、髪をかき乱して頭皮を撫でる指や、顎まで覆われた手のひらの感触も。
一週間じゃ、まだ無理だ。
体内の、奥の奥まで押しいられた感触を思い出し、恐怖と嫌悪の尾ひれがざわりと背中を撫ぜた。
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