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フラッシュバック

 忘れたくても、ふとした時に湧いてくる。  断片的な記憶が、体感を伴うスライドショーみたいに次々とフラッシュバックして、ぞわっと鳥肌が立つ。逃げたくなった。 「んぬぁ!!」  両腕でガードするように廣瀬の腕を振りほどく。  その流れで思わず繰り出した裏拳をさりげなく避けられ、こちらが呆気にとられるほど、やつは屈託なく笑った。 「なに、めっちゃ元気じゃん。美夜飛?」  ていうか渾身の裏拳を避けるな。  そういうところは、あえて殴られた兼嗣とは対照的だと思い、廣瀬の笑顔に、毒気を抜かれて。  忌々しい熱が嘘のように引いていき、安堵した。  肌で感じるってきっとこういうことだ。  本気度が全然違う。  廣瀬のは、今のは、ただの悪ふざけ。  そんなことはちゃんと、分かってる。  なのに、いちいち全部、こいつの挙動と兼嗣を比べていることに気づいて、自己嫌悪で反吐が出る。 「やめろ、そもそも嫁ってなんだっ、俺は男なんだよ……っ」 「……そんなの、知ってるよ。見てのとおりじゃん」 「っ、!」  だめだ、まだ、動揺してる、俺。  目が泳ぐ。脳みそが揺れる。  内心で、狼狽えた。  俺の異変を目ざとく察知した廣瀬が、さっきとは違う真剣な眼差しで、無意識に後退りしていた俺の二の腕をぐっと掴む。 「だから余計に、心配なんだろ」  顔をあげると、覗きこんできたやつと視線が絡んだ。 「……っ」 「男に抱かれたいだけなら、遠山じゃなくて俺にすればいいって思った。だけどそうじゃないんだよな?」 「……当たり前だろ」 「今までの挙動も、反応も全部、普通に男だと思うよ、俺も。だからこそお前が、本当は……」  そこで廣瀬は、開きかけた口を噤んだ。 ──本当は、抱かれることを、無理してるんじゃないかって。  言わなくても、なにを言おうとしているか、分かってしまった。 ……やば、泣きそう。  こんな突然、なんで。  俺だって、ほんとは、ほんとは、いやだ。  男なのに、男に抱かれて快楽を得られることに、腹の底から抵抗がある。  でも、兼嗣が必死こいて俺を求めてくるなら、俺はその気持ちを、ちゃんと認めてやろうって。  こんなのは同情じゃない。  いっそ哀れみでもあればいいのに、そんな気持ちは毛頭ない。  ただの、腐れ縁だ。  でもこのまま放っておいたら、本当に腐り果てて切れてしまう。  俺にはそれが一番、我慢できなかった。

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