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苦しいのはあいつのせい

「お前……、変なとこ義理堅いから。苦しいなら、言えよ。暴言でも悪口でも何でもいいから、吐き出したほうが楽になる」 「……っそんな、こと、ねえから」 ……本当にな。口に出さないのって、すごい苦しいよ。  でもそれを、お前に言ってどうする。  言わなきゃいけない相手は、巻き込んでいいのは、兼嗣だけなんだ。  廣瀬が俺の両肩を掴んで、念押しするように問いかける。 「美夜飛……お前は、それでいいの?」 「……ん」  こくんと頷いて、廣瀬と目を合わせる。  いつの間にか、ざわざわした焦燥感はおさまっていた。 「……そっか。じゃあ俺はもう何も言わねえ」 「……」  目尻にじわりと涙が溜まっていく。  なんで泣きたくなるのか、自分でもよく分からなかった。  瞬きしたらポタリと雫が落ちてしまいそうで、目を開いたまま、唇を噛んでぐっと耐える。 「可愛いやつめ。なんでそんな落ちてんの。別に俺らは今までと同じだろ」 「そうだけど……」 「なんかあったら言っておいで。いつでも慰めてやるから」  廣瀬は優しく目を細めると、本当に自分の弟にするみたいに頭をわしゃわしゃと無造作にかき撫でてきた。  普段ならその行為にいい気はしないんだけど、今は全然、悪くない。だけど明らかに励まされているのが気恥ずかしくて、笑って誤魔化す。 「ふはっ、すげえな……お前、そんな台詞。こっちが恥ずかしいわ」 「なんで? 言葉って、伝えるためにあるんだよ」  きょとん、と、さも当たり前のように言った廣瀬の台詞が、刺さった。 「……そうだな、ほんとに」  ちゃんと、話がしたいんだ、兼嗣と。  面と向かって伝えたいことが、たくさんある。 「……クソほどムカつくから無視すんなって、兼嗣に吐き捨ててくるよ」  それはいいな、って、廣瀬が笑って頷いた。

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