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された側の特権
ちょっと苛立って、つい語気を強めた。
泣いてる俺にちんこ勃たせてたのが、心からショックだった。
さっきのも、そうだ。
自分をオナホとしか見ていない証拠だと思った。
やめてって言ってるのにやめてくれないのも、悲しかった。
やられた行為そのものよりも、自分の意思を全く尊重してくれなかったことのほうが、つらかった。
「……逆になんで、あんなこと白状したの。罰してほしかったのか、誰かに」
「……」
「廣瀬にも、花岡も、お前の身勝手で嫌な役回りさせんなよ。そういうところがムカつくんだよ、俺は」
「……ごめん」
「……お前さあ、喋るオナホでもほしかったの」
「っそんなわけない! そんなっ、そんな恐ろしいこと考えたことないよっ」
「いや、でも実際そうだったろ。あんとき、俺はお前のテンガだったんだよ。さっきのことだって、お前はそんなつもりなくても、俺がそう思ったんだからそうなんだよ」
無感情のまま冷ややかに言えば、兼嗣は青ざめた表情でわなわなと震える唇を横に引き締める。
……だからなんでお前が、そんな悲しい顔をするんだよ。
いつも、そうだ。昔から。
俺は本当のことしか言わないのに、それを言うと誰かが傷つく。
いやな目に遭いたくないから鎧をまとうのに、鎧をまとうと標的になる。
なのに世間一般では正直に生きろとか嘘はつくなとか言う。本当に意味が分からない。そんな器用なこと、どうやればいいんだ。
弱い自分がいやだ。
傷つきたくないから強くなったのに、強くなったら、傷つける。
守りたいはずの他人も、自分さえ。
「俺のことなんかどうでもよかったんだろ?」
「……」
「そういうの、考えたことなかった? 俺の気持ち。俺がお前のこと嫌になって、目の前からいなくなるって」
「……ごめ、ん」
「カラダだけ先に奪って、食い散らかして、ご馳走さまもなしか。ぜんぶ自己完結で、俺自身はずっと置いてきぼりなんか」
「……本当に自分のことしか、頭になかったんだね」
……ああ、そうだ。本当にな。
俺だって結構怒ってる。でも怒るだけじゃだめだ。
殴ったり、傷つけたり、罵ったりするのは簡単なんだ。
身体の横でぎゅっと拳を握った。手のひらに爪が食い込む。
落ち着け、俺。
感情的になるな。
大きく息を吸って、密かに吐いた。
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