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友達じゃ足りない
……こんなことなら、殴らなきゃよかったのか。
最初も、さっきのことも。
抵抗もせず、本心を隠して取り繕って、あたかも自ら望んでいるかのように身を任せれば、何か違ったのか。
でももうそれって、そんなの、俺じゃなくてもいいだろ。
「……ここ、まだ腫れてんの?」
沈黙が息苦しくて、兼嗣の頬を指先でちょんと触れた。
やつは首を横に振って、否定する。
二日連続でおんなじところを俺と廣瀬に二回も殴られてた。
ついでに先ほども思いっきり平手で打った。
あの日キスされたときは、ずっと血の味だった。
表面もだけど、きっと口内も痛かったはずだ。
「……ご飯食べるときとか、痛かったけど、でも俺が悪いから……」
「そこまで分かってんのに、なんで強行突破したんだよ、ほんと」
吐息まじりに苦笑して、呆れるように呟く。
だけど落ち着いた声で、責めるつもりはないという意味で。
しかし兼嗣の肩が小刻みに震えていることに気づき、次いで鼻をすすった音に、心臓がドクンと大きく収縮した。
ちくちく、ちくちく、ザクザクと。細い針を、鋭いナイフを、何度も何度もめっさ刺しにされているみたいな感覚。
「な、んで……泣くんだよ。泣きたかったのはこっちだっての」
「そうだよね……、ごめん、でも、」
きつい言葉を吐いた自覚はあった。
だけど泣かれるほどとは思っておらず、どう声をかけていいか分からなくて、罪悪感がざわりと胸を抉る。
下手に触ることもできなくて宙をふらつく俺の手を、兼嗣がするりと手にとって、指先を重ねてきた。
ぴく、と驚いて肩をすくめる。
「我慢、できなかった……」
「え……?」
「俺はね、友達だけじゃ足りなかった」
──みーちゃんの全部がほしくて、知りたくて。
誰にも触らせたくないって思った。
その言葉に、目を丸くする。
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