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建前はいらない
握られた手のひらが、でたらめに指を絡めてしっかりと繋がれる。
少し手を引いただけでは、逃げられないくらいに。
「ずっと言わないでおくこともできたんだ、きっと。でも、騙してるような気分になって、もう誤魔化せないと思った」
「……」
「だって……、十年以上だよ。そろそろ口が滑ってもおかしくない」
「……」
「何でもないふりをするのは簡単だったよ。自分の感情を、好きな人の好きなところを、見て見ぬふりをするのはまだ我慢できた。でも、」
──これ以上、友達のふりをして隣にいることの後ろめたさに、耐えられなかった。もう嘘はつけないと思った。
兼嗣はそう言うと、双眸のふちにたっぷりと涙を溜めた意志の強い眼差しで、俺を見据えた。
濡れた睫毛が濃くて、瞬きするのが重そうだ。
一度はナカに入ってきたくらい近い距離にいたのに、そんなこと、初めて知った。
……こいつ、やっぱり俺と長年いただけある。度胸あるよ。そしてしたたかだ。
綺麗な二重瞼に涙を浮かべながら、まっすぐにしがみついてくる。
濡れた瞳が、水面のようにキラキラと揺らめく。
「……で、本音は?」
「……全部お見通しってこと?」
「いや、確証はないけど」
「……みーちゃんが俺の気持ちに気づいた上で、まだ離れようとしないなら、それは享受だと思ったのも事実だよ」
「享受っていうか、許容範囲内だったからだ。お前が俺のことをどう思ってるとかは、俺にはあんま関係なかった。ただ物理で手を出されたのが、さすがに予想外だっただけで」
「それは……、本当に謝りようもないよ……。どうせ当たって砕けるなら、忘れられないくらい記憶に残りたくて、正攻法じゃだめだと、思っちゃったんだ……」
やっぱりお前は身勝手だ。
単純に、俺の態度が変わらないから調子に乗った。
そのうえ俺の匂いがどうとかって勝手にマーキングされた気になって、勝手に逆上しやがって。
その暴走のおかげでこっちはどれだけ悩んだと思ってやがる。
お前にとっては十年以上時間があったかもしれんが、俺はたった一週間なんだぞ。
声のトーンが低くなってバツが悪そうに目を泳がせる兼嗣を見て、ため息が鼻から漏れる。
そして諦めに似た感情で、目を細めて呟いた。
「……俺、お前の悪いところも知ってるよ。思い込み激しくて、自分に自信ないくせに、俺を好きにできると思ってるところとか」
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