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丸ごと、ぜんぶ

「……」 「とっくに知ってたけど、今までだったら、それも込みでお前だと思ってたし、別に支障もなかったけど」  もう前みたいには戻れない。  真っ白な紙に折り目がついたら、いくら平らにしても、元には戻らないのと同じだ。  折り目がついてしまったら最後、仕方ないから折り紙でもつくるしかねえだろ。  都合よく、自分だけその場にとどまることができないのなら。  事実を受け入れて、違う形に変えていくしか。 「でも、“そう”じゃなくなるんなら、話は別だよな」  関係が変わるって、こと。  お前とはもはや親友ではない。  でもそれは、お前からすれば、もうだいぶ前からそうだったんだろう。  俺が知りたくなかっただけで、見たくなかっただけで。  その関係は、どちらかが一線を越えた感情を持った時点で、とっくの昔に終わってた。 「みーちゃん……」  繋がれたままの、兼嗣の手に力が入る。  無骨で長い指が、俺の指にゆっくりと絡む。  じりじりと蛇に巻きつかれているようなその緊迫感に、心臓まで捕らわれて、呼吸を忘れる。  けれど触れた指が、自分より広くて分厚い手のひらが。  尋常じゃなく熱を持って汗ばんでいくのを感じ、緊張しているのは俺だけではないことに、唐突に気づいて。  心臓にまとわりついていた恐怖が、すうっと解けていく。 「……兼嗣、俺はさ」  繋がっているのは手だけなのに、内側から全身がポカポカと温かくなる。 「お前の……、兼嗣の我慢で成り立ってる関係なんて、そんなの、絶対にいやだ」  確固たる意志を持って、言った。  声は小さくなったが、語尾にかけてはっきりと伝えられた。  本当はまだ、こわいよ、お前に触られるの。  だってずっとただの幼なじみだと思っていたんだ。  結構な衝撃で身体も心もおかしくなりそうだった。今でも。  あのことがあった前と後では、もう生まれ変わりでもしないかぎり、前の自分を取り戻せないと思う。 「……ゆるして、くれるの……?」 「お前のしたことは許さねえ。でも……、認める」  謝って、許して、終わり。そんな簡単に、なかったことにはさせてやらない。  その代わり、お前の捨て身の行動を、気持ちを、認める。  認めて、丸ごと全部俺が持っておく。たぶん、それがいいんだ。俺は。

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