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幸せとは

 兼嗣は驚いたように目を瞠ると、震える手で俺の両手をとって、その甲に額を押し当てた。  神に願い、忠誠でも誓うように。 「みーちゃん、みやび……。好きになってごめんね……手放せなくて、ごめん。ずっとそばにいたのに、信頼を裏切るようなことして、本当にごめんなさい……」  うん。わかってる。  でも、いいよ、とは言ってやらない。許すつもりはないから。  だって俺はあのとき本当に傷ついたんだ。  深すぎて消えないところに、刻みこまれた感覚があった。  それは今後、似たようなことがあるたびに思い出す。何度も。 ……だけど、でも。  お前が、自分のしたことに少しでも気づいたんなら、もうそれで。  落としどころはまだ見つからない。  親友と恋人、どちらも手に入れられてお得と言えば得なのかもしれない。  いつか、そう気楽に思えるくらいになればいい。 「……自信が、ないんだ……俺、男として廣瀬に勝てる要素ないし」 「……廣瀬は関係ないだろ。あいつの名前出すな。俺は今、お前と話してんのに」 「……だって、俺だって、みーちゃんを幸せにしたい……けど、できるかどうか分からないよ……。さっき、俺、裕太が止めてくんないと、前よりひどいことしそうだった……。自分が恐くて、ずっと、ずっと不安なんだ」 「……そこはお前、嘘でもいいから、責任とって幸せにするとか言えねえのかよ」  馬鹿正直にも程があるだろ。  何だか可笑しくて、そしてそんなところが愛おしいと感じる自分も、とうとう末期でアホだなと思う。 「……まあもともと、俺はお前に幸せにしてほしいなんて思ったことねえけどな」 「……っ」 「そういうのはさ、今後ふたりで築いていくもんじゃねえの。だからお前がいっぺんに抱える必要はないだろ」 「……みーちゃん……」 「それよりお前、仲間んとこ毎日行くの、やめろよ」 「え、なんで……?」 「お前が俺に、廣瀬を頼るなっていうのと同じ。たぶん」 ……顔、熱い。赤くなってたら、嫌だな。  こういうのも、慣れていかなきゃいけない。  気恥ずかしいけど、お前が求めているものを少しでも与えてやれたらいい。  でないと、離れていってほしくないから受け入れたのに、意味ないじゃねえか。

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