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第3話

 相手は男だぞ!  って言葉を最近じゃ毎日言い聞かせるように自分に呟いている俺。  カナちゃんとヤった帰り道に松原と偶然会ったあの日からもう一ヶ月も経ってる。  あれっきり俺があいつを見ることはなくって、松原の彼女の実優ちゃんからノロケ話としてあいつのことを知る現状。  あいつのことを聞けて嬉しいっていう気持半分、実優ちゃんがうらやましいなっていう気持半分。  この前は松原の誕生日だったらしくて温泉に行ったらしい。  あー、いいな。俺も温泉一緒いきた――。 「ちがーう!!!!!」  慌てて叫んだ。  気を抜くと思考がいつも変な方向にいってる。考えるまでもなくヤバイってわかる。  相手は男だ!  それをキーワードに気合を入れなおしている俺の頭がいきなり力任せに叩かれた。 「ってぇ」  なんだよ、と下校最中のいま横を歩く腐れ縁で一応親友の湯高和明をにらむ、とにらみ返された。 「うるせぇんだよ。なんか一人でブツブツ言ってると思ったら『ちがう!』って叫びやがって。しかもしょっちゅうだぞ!? いい加減キモイんだよ!」  和は普段無口なやつ。だからこんなに勢い込んでまくしたててくるってことは相当俺がウザかったんだろう。 「……悪かったよ」  まさかぐだぐだ悩んでいることを相談できるはずもねーし、いまは松原のことで頭がいっぱいで喧嘩する気にもならない。  素直に呟くと、和は俺のことを変なものでも見るような視線を向けてきた。  なんだよ、って口を尖らせると和はでかいため息をつく。 「なんか悩んでるんだったら言えよ。横でうだうだされててもウザイだけだからな」  和は金髪で制服もかなり着崩しててケンカも強い、いわゆる不良系。  でも小学生からつるんでる俺から言わせれば不良ではないな。確かにケンカ強いけど、見た目悪そうだけど、妙に純粋で優しいところがある。和からケンカを吹っ掛けることもないし。  なんだかんだ憎まれ口を叩きながら俺のことを心配してくれてるってのはわかってる。  だから小さく頷いた。 「そんな大した悩みじゃねーし。やばくなったら相談する」 「……ああ」  ほんとはすでにめっちゃくちゃヤベーけど。  松原に会いたいなぁなんて。  寒気のするような乙女思考にたまになったりするけど。  相手は男だ! となんとか理性を総動員して暴走しそうな気持を押さえこんでる。  ――……つーか。  暴走しそうになってるのかよ! あああああ、もうまじでどうしよう。 「――いいな」  またしても上の空で松原の呪縛にとらわれてた俺。  和がなんか横で喋ってて、我に返って首を傾げた。 「あ、ごめん。なんだって?」  ちらり俺を軽くにらんでから和はため息混じりにもう一度言ってくる。 「ゆーにーちゃん、たいしたことないならいいなって話だよ」 「……は?」  ゆーにーちゃんっていうのは俺が好きだった(え、過去!?)女の子・実優ちゃんの叔父さん。  実優ちゃんは両親を小学校のころに亡くしてて、そのあとゆーにーちゃん、叔父の優斗さんと一緒に暮らしてたんだ。だけど優斗さんは海外赴任でニューヨークに行ってしまって、それで実優ちゃんは松原と同棲を始めた。 「ゆーにーちゃんが、なに?」 「……お前話し聞いてなかったのかよ」  また呆れたように和がため息をつく。 「昼休みに実優が言ってただろ。向こうで優斗さんが事故って足を骨折したって」 「……あ、ああ~」  わかったふりをしたけど、実際全然覚えてない。聞いてなかった。 「それで明日から実優ちゃんが向こうに行くって」  たぶん和は俺が話を聞いてなかったことに気づいてるんだろう。  白い目を向けてきながら説明してくれる。 「学校休んで?」 「そうだよ。明日から行って、日曜日には帰って来るって言ってたから5日間だな」 「え、でも」  松原はいいのかよ―――。  思わず言いかけたその言葉をゴクンと飲みこんだ。だって、俺がそんなこというのは変だから。  でも、気になってしまう。  実優ちゃんの叔父さんの優斗さんはまだ28歳って若くって――前、実優ちゃんと付き合ってたことがあるって知ってるから。  世間的には禁断っていわれる関係だった二人だったけど、実優ちゃんが松原を好きになって別れたんだ。  結構そのときはもめたっていうか大変で、俺も実優ちゃんと松原がうまくいくように助言したっけ。  ――……なんで助言したんだろ。 「でも、なんだよ?」  ハッと我に返る。またまたトリップしてしまってた。 「え、いや、あの……。ほらゆーにーちゃんと実優ちゃんって付き合ってたからさ。大丈夫なのかなって思ってさ」 「は? んなのいまさらさろ。とっくに終わってることだし、実優にとっては叔父さんなんだから心配して当然だろ」 「う、うん」  そうなんだけどさ。  わかってるけど……。  ――松原はイヤじゃないのかな?  もう関係ないって言ったって、遠く海外で二人っきりにさせるの不安じゃねーのかな? 「それに実優と松原はラブラブバカップルだからな。実優、べタ惚れだし」  そう言う和の横顔はちょっとだけ寂しげ。  こいつも実優ちゃんのことが好きで、たぶん今もまだ忘れられてないんだと思う。  俺だって実優ちゃんのこと好きだったけど、なんでか考えてしまうのはあいつのことで。  和の言った『ラブラブバカップル』っていう言葉がトゲどころか槍みたいに胸に突き刺さった気がした。  あたりまえなんだけど、俺が入り込む余地なんてないんだよ、な……。 「……って、ちがーう!!」 「……捺、だからテメェはうるせぇんだよ!」  すかさず和に鉄拳を食らわせられたのは言うまでもない。  そしてとくになにごともないまま日々は過ぎて、新しい週になって。  でも――実優ちゃんは学校を休んだままだった。  友達の七香が言うには生活面とか不便なこともあるから実優ちゃんがそばにいて世話してやってるらしい。まだもうちょっとあと1週間くらいは帰国が伸びるって言ってた。  俺はその話を聞いて、なんかわかんねーけど胸の中がモヤモヤして、むかむかした。  そりゃ一人単身で赴任してんだから怪我したら世話してくれる人が必要だろうけど。  でも、松原はいいのかよ。  って、最近じゃそんなことばっかり思ってしまってる。  早く実優ちゃん帰ってきてやれよ。  そう思ってたのに。  あるきっかけで、俺は――……。  俺は、とんでもない行動を起こしちゃうのだった。

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