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第5話
それからリビングに戻ると松原は焼酎を開けてた。
「はやっ!」
思わず叫んだ俺に、松原はニヤッと笑って――。
「ちゃんとこの焼酎の分も明日怒られろよ? どうせ勝手に持ってきたんだろうが」
まさしく図星をついてくる。
勝手に持ってきたってわかってんのなら飲まないで返してくれればいいのに。
なんて思いながらキッチンで氷の用意をしている松原を眺めてた。
「お前、飲めるのか?」
「へ?」
「焼酎だよ」
「あ、うん。ちょっとだけ」
自慢じゃないけど俺は酒強いほう。
未成年だけどさ、従兄のマサ兄のバーの手伝いをしたり、親父の晩酌に付き合ってたりしたら酒に強くなってた。もともと強いほうなんだろうけど。
「どうする? 飲むか?」
キッチンからグラスを手にして俺に訊いてくる松原。
「元教師が……いいのかよ」
普通酒勧めるか?
「今日は特別見逃してやるよ」
ふっと笑う松原に心臓がドキンドキンって音たててる。
顔も赤くなりそうなのを必死に耐えながら、「ちょっとだけ飲む」って答えた。
松原も酒強そうだし……俺が先に潰れたら意味ないしな。
……って、なんの意味だよ!!
そう思いながらも俺の意識はポケットにある"媚薬"を気にかけてる。
「……手伝う」
邪な気持を悟られないように笑顔を浮かべながらキッチンに入った。
キッチンはきれいに整理されてて、ところどころにあるピンクとかのキッチン用具が――実優ちゃんがここに住んでるってことを実感させられる。
チクチク、胸が痛む。
実優ちゃんは俺が好きだった子で、いまは大事な友達で。
そんな彼女のいない隙を狙って松原のそばにいる俺って……裏切り者、だよな?
でも……。
あの罰ゲームのキスからもう3カ月以上経つけど、どうしてもあのことが忘れられなくって。
これが本当に恋なのかもわかんねーけど……。
だからこそ、今日ははっきりさせたいって、思った。
松原が……俺のことをちゃんと見てくれたら――俺の気持もはっきりするような気がして。
――……そんなの建前だったり言い訳だったりするかもしれねーけど。
「おい、これ持って行け」
いつの間に用意したのか皿の上に酒のつまみが用意してあって、それを渡された。
カツオのタタキに、いま作ったのかクリームチーズに鰹節としょうゆがかけられているやつ。
松原は氷と水とグラスの乗ったトレイを持っていって、俺もあとを追った。
「作れんのか?」
大丈夫かよ、という松原の視線を無視して焼酎の水割りを作る。
はい、と渡したら松原は一飲みして「ちょうどいい」と笑ってくれた。
それにホッとしながら、どきどきして。
ああ、俺もう無理かも、なんて思いながら松原と飲み始めた。
一回りも違うけど、やっぱり男同士だしそれなりに話しは合った。
映画のこととか、ゲームや学校のこと。
元教師だからっていうより、やっぱりこいつお坊ちゃんだからなのか、でかい企業の息子として生まれてきてるからか頭いいなって思った。
博識で、俺の疑問にいろいろ答えてくれて、めちゃくちゃ楽しくってあっというまに時間は過ぎていく。
話題は松原が学生時代のことになって、女がらみのいろんな話をした。
俺もその点は似たような感じだから、かなりなエロトークになっていってて――。
正直、チャンスかも、と思った。
「氷ないな。足してくる」
松原がキッチンに立つ。
結構酒飲んだけど、やっぱり強いらしくとくに松原に変わった様子はなかった。
俺はポケットから例のものを取り出して松原のコップに………。
「……」
えと、何滴だっけ?
1……、2滴?
ミッキーなんて言ってたっけなぁ、なんて迷ってるとキッチンから、
「なんか食いもん追加するか?」
声がかかって、びっくりした瞬間俺が持っていたあの容器の中身は空になっていた。
「……」
「おい、向井?」
「……あ、あー、もういいかも」
裏返りそうになる声で叫んで、慌てて松原のグラスを揺すって混ぜる。
変にどきどきしてる。
それはどうしようっていう不安がメインだ。
――大丈夫なのかな。
やばい。でも……効くって決まったわけじゃねーし。
たいして効かないかもしれねーし。
「大丈夫、大丈夫……」
媚薬なんて実際効果ねぇだろ!
ぼそぼそと自分に言い聞かせているうちに松原が戻ってきた。
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