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第6話

「でさ、その女の子が―――」  昔付き合ってた年上彼女の話をしてる最中。俺は笑顔で喋りながらも松原の様子を凝視していた。 「……あぁ」  どこか気のなさそうな返事をする松原。  Tシャツから見える首筋や、顔がほんのり赤く染まってる。  目もちょっと潤んでるし、さっきから頻繁についているため息もなんか熱っぽい。  ――あの、薬効いてる?  そうとしか思えない松原の変化にそっと唾を飲み込む。  松原が媚薬入りの酒を飲んでから15分。  それが早いのかどうかわかんないけど、確実におかしくなってきてる松原の様子に不安なんて吹き飛んで、これからどうなるのかっていうドキドキさに俺は支配されてた。 「……やっぱ、キスって大事だよな? 俺、キス好きだし」  あの罰ゲームの時のことを持ってくるために話しを意識してそっちへと持っていく。  松原はちょっとつらそうに眉を寄せながら曖昧に頷いた。 「そういやさ……俺と松原も、したよな?」  うあああ、まじで緊張する!  心臓が口から飛び出しそうな感じ。  ドキドキしながら俺の言葉には反応しないで息を荒くしている松原にちょっとだけ近づいた。  いま俺たちはソファから下りて床に座って飲んでた。  距離がほんの少しだけど、20センチくらい、縮まる。 「人生ゲームの罰ゲームでしたの、覚えてる? 松原、本気でしてくるから俺めちゃくちゃビビったんだぜ?」  できるだけ軽い調子を心がけながらまたちょっとだけ距離を縮めた。 「あーんな舌絡めまくってくるから、ほんとどうしようかと思ったんだからな!」  聞いてんのかよ、って笑いながらわざと松原の肩に触れてみる。  とたんにビクンって松原の身体が震えた。  ……ま、まじであの薬……効いてる……よな!? 「……触るな」  赤らんだ顔で松原は俺をちらり見て、かすれた声で言った。  うあ……ヤバイかも。めちゃくちゃ色っぽいんだけど!!  やば……押し倒したくなってきた。  むらむらとしてきて、下半身がむずむずしてくる。 「でも……さ、松原ってキスうまいよな? 俺も負けないつもりだったけど、めちゃくちゃうまかったからびっくりしちゃった。やっぱ年の分、松原のほうが経験あるからかな。なぁコツってあんの?」  興奮を隠すようにまくしたてる俺。  そしてわざと松原のほうに身を乗り出して、見せつけるようにぺろっと舌を出した。  そんでもってさっきは効かなかったけど、もう一度だめもとで上目遣いで見上げてみる。 「なぁ、教えてよ? うまいキスの仕方」  可愛い、って言われるとっておきの笑顔をプラス。  松原はじっと俺のことを見てる。  なに考えてんのかわかんないけど、潤んだ目がはっきり欲に濡れてるってことはわかる。 「―――……お前」  少し間が空いて、松原が呟いた。 「……俺とキスしたいのか?」  言って、薄く笑った松原に――なんでだろう、なんでかちょっと怯んだ。  その眼が妖しく光ったのを見て、でもゾクゾクって鳥肌がたつのを感じて。  ごくん、って唾を飲み込むやけに大きな音が俺の中で響いた。  こんなにドキドキしてんのっていつぶりだろ。女の子相手にびびったことなんてねぇのに。相手が男だからか松原だからかすっげー緊張してる。  だけどここで怯んだら男じゃねぇ!  そっと顔を近づけて、ちょっとだけ唇に触れた。ガキかって感じの掠めるだけのキス。  でも次の瞬間、力任せに引っ張られてあっというまに熱い唇に唇を塞がれて舌が割り込んできた。  びっくりしながら、うまくいったことに嬉しくなったけど。    俺の浅はかな行動が―――この先とんでもないことになっていくなんてこと、このときの俺は知るはずもなかった。 ***

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