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第12話

「……ん」  ぼんやり瞼を上げると天井が映った。 「………」  俺の部屋にはない形の照明。  明るい日差しが室内を照らしていた。 「……ん?」  肘をついて右見て左見てみる。  やらたらとでかいベッドの真ん中に寝ていた。  俺の部屋よりも広い寝室はなんかオシャレな高そうなモノトーン系の家具で揃えられてる。 「……どこだ……、……あ!!」  ようやく寝ぼけた頭が活動してきて思いだした。  きょろきょろあたりを見渡すと時計を発見。9時を指してる。 「……朝の9時!?」  ぴょんと跳ね起きて、なんだか違和感を覚えて俺は自分を見下ろした。 「……これ」  俺が着ているのは着替えとしてもってきたいたTシャツにハーフパンツだった。  松原が着替えさせてくれたのかな?  だって俺、あのとき――。  そう考えて一気に顔が熱くなった。  昨日の夜のこと、最後イッて意識を飛ばしたのは……夢?  意識がなくなるくらいに気持ち良かったことなんていままでない。  そりゃ射精すれば気持ちいいし疲労感で眠くなったりするけど。  昨日のはそんな次元じゃなかった。  射精なんかよりもっと倍以上気持よかった。 「……あれ、なんだったんだろう」  後孔であんなに感じてしまってたことがめちゃくちゃ恥ずかしい。  そういえば松原……、前……なんとかっていってたっけ?  つーか……めちゃくちゃ喘ぎまくってたような気がするんだけど!?  うああ、恥ずかしい……。ありえねぇ。  頭を抱えて羞恥に悶々としてたら―――ドアの向こうから小さな電子音が微かに聞こえてきた。  電話、かな?  ぼんやり考えながら、俺もとりあえずリビングに行こうって思った。  寝室のドアに手をかけて開けたら、松原の横顔が目に飛び込んできた。  電話している松原は笑ってる。  ものすごく……優しい顔で。  すぐに電話の相手が実優ちゃんなんだってわかった。  松原は穏やかな顔で相槌を打ったり、優斗さんのことを訊いたり、声をたてて笑ったりしてた。 「……」  ドアをそっと閉めて、もたれかかる。  昨日は媚薬なんて使ったから……きっと流されたんだろうけど。  結局最後までシてないし、ていうか俺わざとイかされて寝かしつけられたとかじゃねーのかな。  なんだかそんな気がした。  俺の身体はべたつきとか全然ないし、いままで俺が寝てたベッドは俺がいたところだけ皺がよってるけど他はキレイだ。  きっと松原はここで寝てないんだろう。 「……俺、なにやってんだろ」  すごく空しくなってベッドにダイブした。  柔軟剤なのかすごくいい香りがするシーツ。  無理やり一晩泊めてもらって、無理やりヤろうとして――。 昨日の夜はとにかく夢中だったけど、今考えるとバカバカしくて情けなくって惨めで……自分がウザイ。  枕に顔を埋めてきつく目を閉じた。  ダサすぎる……。  オカマのアドバイスなんて聞くんじゃなかった。  なんて責任転嫁してみたりするけど、テンションはどんどんどん底目指して落ちていく。 「……あの二人の間に割り込めるわけねーのに」  らぶらぶだって、知ってたのに。  ツキン、て胸が痛む。  ……松原のこと、俺やっぱり好きだったんだよな?  いまさらなことを自分の心に訊いてみる。  返ってくるのは苦しさだけで、やりきれなくなる。  いまはなにも考えたくないし、松原に今会うのもイヤだったから寝ちまおうって一層強く目をつむった。  どれくらいかかったかわからない。  たぶん30分くらいかかってようやく眠りについた。  力強く身体を揺すられて目を開けると松原が目の前にいた。 「うわっ!!」 「……うわっじゃねーよ、お前いつまで寝てるんだ」  呆れたように腰に手をあてた松原が大げさなくらい大きなため息をつく。 「いつまでって……いま何時?」 「12時だよ!」 「げ!」 「今日用事あってあと30分後にはマンションでるから、お前も帰り支度しろ」 「あ、うん」  ラフな感じの私服を着た松原は言うだけ言ってすぐに寝室を出てった。  松原に変わった様子は全然なかった。  俺が昨日訪ねてきたときと変わらない。  まるで昨日の夜のことなんてなにもなかったような――……。 「……だぁ! やーめた!!」  パチンと両頬を叩く。  またマイナス思考に陥りそうだったから、ぐだぐだした思考なんて放り捨てる。  勢いよくベッドを飛び出て、キッチンにいた松原に声をかけて洗面所を借りた。  来客用の歯ブラシなんかあって、それで歯磨いて。  ピンクとグリーンの歯ブラシ見てもやもやっとしかけたけど、可愛いクマの絵が入ってる子供向けのやつで、ちょっと笑ってしまった。  顔洗って、松原の整髪料借りて髪を適当にセットしてリビングに戻った。  ちらりこっちを見た松原が、 「食え」 と言ってダイニングテーブルにのってた皿を指さした。上にはサンドイッチが乗ってて、オレンジジュースも用意してあった。  ぽかんとする俺に「とっとと食って、さっさと着替えろ」有無を言わせずに命令してくる。 「わかったよ」  急かされながら口にしたサンドイッチはめちゃくちゃウマかった。  卵とハムサンド……まさか松原が作ったのかな?  意外すぎてじっと見てたら睨まれたから急いで口に詰め込んだ。  それから着替えて、松原が言っていたちょうど30分後俺たちはマンションを出ていった。

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