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第20話

「はい、どうぞ」  優斗さんのマンションで俺の目の前に”1杯”が置かれた。  着くまでの車の中ではものすごく他愛のないことを喋ってた。  俺の好きなアーティストとかゲームとか、そんなことばっかり。  逆に学校のことや実優ちゃんのことなんかは全然話しに出てこなかった。  初対面だから緊張してたけど、30分くらい喋ってたら少しだけ打ち解けたような気がしないでもない。  とりあえず第一印象どおりに優斗さんはすごく優しい人なんだって実感した。  なんか雰囲気がずっと穏やかなんだよなぁ。  イイ人そうっていうか、良い人で間違いない。  ……だけど。だけどさ、これって……?  出された"一杯"を見て俺は……戸惑った。 『一杯だけ俺と付き合ってくれないかな』って、この人言ったよな?  斜め向かいのソファーに座った優斗さんをちらり見る。  優斗さんも俺と同じ"一杯"を手に持っていて、飲んでいた。 「……」 「あれ、きらい? コーヒー」  カップをテーブルに置いた優斗さんが不思議そうに俺に訊いてくる。 「嫌いじゃ……ないです」  言ってカップを取った。  わざわざ豆から挽いてたコーヒーは、よくわかんねーけど良いにおいがする。  普段飲む缶コーヒーとかと同じじゃない。  でも――、一杯っていったよな? いや確かに一杯のコーヒーだけどー。  コーヒーを飲みながらちらっと優斗さんを見ると、目があってしまう。  へらって誤魔化すように笑うと、優斗さんは小さく吹き出した。 「どうかした? コーヒーじゃ物足りなかったかな?」  俺の疑問を見透かすように首を少し傾げる。 「え、いや……」  そうじゃないけど。  別に酒じゃなくってもいいんだけど……。  ここに……優斗さんの部屋に来ることになったのは、俺が未成年で夜の街につれていくのはちょっと……ってなったからだ。  確かにマサ兄の店ならともかく普通に居酒屋なんかで飲んでてもしなんかあったら優斗さんに迷惑かけるだろうし……。  だからここに来てもいいし、酒も飲まなくってもいいんだけど。  ただ……。 「あの……」 「なに?」 「……いえ」   この人は俺に……なにか話しがあるんじゃねーのかな?って、なんとなくそう思った。  だからって何の話かなんてわからな……って、もしかして実優ちゃんのこととか?  ありえるなぁ……。実優ちゃん関係だったとしてもどういう内容かはわかんねーけど。やっぱりこの人ってたぶん絶対まだ好きなんだろうし。  ミッキーのアドバイスとは違うけど、この人から『実は元サヤに……』とか言いだしちゃったりするかも。  そういうとき、俺はどうすればいいんだろう?  そりゃ俺は松原がフリーになってくれたらありがたいけど、だからって二人の中を引き裂くのもどうかなって……思うし。  俺が言えた義理じゃないけど。  でも松原がフリーに……。  って、だから違うー!!  さすがに初対面の優斗さんの前で叫ぶわけにもいかないから、心の中で絶叫する。  だけどどうやら顔には出まくってたらしくって――。  小さな笑い声がしてぽかんとして見ると優斗さんが口に拳をあてて笑いを我慢していた。 「……あ、あの?」  どうしたんだろう?  不思議に思う俺の顔を見て、優斗さんが吹き出す。  だけどすぐに「ごめんごめん」と言いながら、それでも顔を緩ませて首を傾げた。 「いや……捺くんの百面相がおかしくってね。ころころ表情が変わるから可愛くて」 「……」  俺ってすごくはずかしいヤツじゃねーの!?  ……つーか、なんかこの人から『可愛い』とか言われるの二度目な気がする。  褒めてるんだろうけど、なんか複雑。 「……よく言われますー」  なんて返せばいいのかわかんなかったから、へらっと笑ってそう言った。  実際よく女の子たちから『可愛い』って言われるし、それ武器にしてる部分もあるし。  優斗さんはただ微笑んでいて、そのあと話しは俺の学校生活のことになった。  そこでようやく「実優は――……」って実優ちゃんの話がでてきて、俺は実優ちゃんの日常を聞きたかったのかなって思った。  実優ちゃんのことを離すと優斗さんはとっても優しい笑顔を浮かべる。  だから、いろいろ話してあげた。  だってこの人は振られて、それでもまだ――好きなんだろうから。  俺なんかに同情されても嬉しくないだろうけど……。  だけど――話しがひと段落して、優斗さんが言ったのは予想外のことだった。 「……捺くんはまだ……実優のことが好きなのかな?」

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